抄録
1. 河成複式低地における地形分類の課題
河成低地は,河川の流路形態や微地形,表層堆積物の性質等の違いから,扇状地,谷底平野及び氾濫原(蛇行原)に区分されてきた(以下,これらの階層の地形を複式地形という.).各種の地形分類図では,複式地形よりも階層の低い自然堤防や旧河道などの単式地形について詳細な分布を明らかにしてきた一方で,複式地形と単式地形の階層的な整理は十分になされていない.単式地形における自然災害リスクを適切に評価するためには,その単式地形がどのような複式地形の構成物であるのか把握する必要がある.ここでは,複式地形の整理における課題として以下の2つを挙げる.
(1)一般的とされない類型
相模川低地(貝塚・森山,1969)のように,扇状地や氾濫原などの一般的な複式地形の定義とは一致しない地形が古くから知られている.このような地形について地形分類の観点から着目した研究は少なく,類型の再整理はなされていない.
(2)地形の平面形を重視した類型
地形分類図の複式地形の類型には表層堆積物を推定することが難しいものがあり(例えば,谷底平野),適切な自然災害リスクの評価が困難な場合がある.近年,この問題を解消するため,谷底平野と扇状地に傾斜区分(傾斜度1/100以上及び1/100未満の2区分)を設けて,液状化危険度を評価する試みがなされている(例えば,中埜ほか,2015).ただし,これらは液状化危険度のみを対象としており,傾斜度1/100未満における傾斜区分の検討はなされていない.また,傾斜度と表層堆積物との関係は未だ十分には明らかになっていない.
2. 表層堆積物と平均傾斜度との関係
1章の課題を踏まえ,複式地形の類型の整理を目的として,表層堆積物と平均傾斜度との関係を調べた.
(1)調査手法
対象とした河成複式低地は全国141箇所である.平均傾斜度は,5mDEMから作成した標高段彩図(2m段彩)を基にして求めた.ここで,5mDEMの未整備部分や,潮汐の影響のある低地は除いた.また,標高段彩図から低地の平面形状,単式地形の分布とその形状による定性的な地形判読を行い,複式地形を6タイプ(A~F)に類型化した.このうち,氾濫原とされてきたものは4タイプ(C~F)に分けた.
表層堆積物は,国土地盤情報検索サイト「kunijiban」,みちのくGIDAS,九州地盤情報共有データベース等で公開されている柱状図資料から抽出した.それらに記載された層相をもとに,表土や盛土・埋土の最深部から地下5mまでの礫層,砂層,泥層の各層厚を求めた.このとき各複式地形について,ボーリング地点の偏りが少なくなるように,その面積に応じて複数(3~65本)の柱状図資料をサンプルデータとし,各層厚の平均値を求めた.この値を用いて,各複式地形における地下5mあたりの泥層の厚さMに対する礫層の厚さGの比率(G/M)を求めて,表層堆積物の性質を評価した.
(2)結果
河成複式地形の類型ごとの表層堆積物と平均傾斜度との関係を図1に示す.6タイプごとの分布傾向は,ある程度のまとまりを示した.傾斜度1/500以上の多くはG/M>1の扇状地(Aタイプ)を示したが,急傾斜ほどG/Mのばらつきが大きくなった.また,谷底平野(Bタイプ)は扇状地よりもG/Mが大きく,凹形谷型の類型(Cタイプ)はG/Mが小さい傾向がみられた.傾斜度1/1000~1/500では,G/Mのばらつきが大きく,G/M>1ではBタイプや網状流路による微地形が卓越する類型(Fタイプ)を示し,G/M<1では鳥趾状の自然堤防が卓越する類型(Dタイプ)を示した.傾斜度1/1000未満では,蛇行流路による微地形が卓越する類型(Eタイプ)とFタイプがG/M≒1付近に分布し,G/M が小さいほどDタイプが分布した.このように,氾濫原と一括されてきた低地であってもC~Fの4タイプによって分布傾向に偏りがみられた.今後の課題として,分布のばらつきの要因を調べつつ,定量的に類型化するための基準を整理し,地形分類体系の議論を進める必要があると考える.
