日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 218
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発表要旨
人口移動の影響を考慮した親子同居の実質的地域差
*丸山 洋平
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抄録
1.はじめに

 地方創生の潮流の中、合計特殊出生率や3世代世帯割合等の人口学的指標を介して、地域の人口や家族の特性およびそれらの地域的差異に関心が集まっている。本研究が扱う親子同居率(子どもから見た親との同居率)もその1つである。親子同居率が高いことは、家族のつながりが強いとして好意的に解釈されることが多い。しかし、この指標は静態統計として得られるものであり、過去の人口移動の影響が考慮されていないという課題がある。すなわち、その相対的な高さが、親と同居しない者の人口流出が激しいことを意味しているにすぎない可能性があるということである。人口移動の影響を取り除いたとき、実質的な親子同居傾向の地域差はどのような形で表出するのか。これが本研究の基底をなす問題意識である。本報告では、全国を対象として親子同居率を同居可能率と同居実現率に要因分解する方法を提起した廣嶋モデル(後述)に着目し、それを都道府県スケールに適用することを試みた結果を報告する。

2.廣嶋モデルと人口移動の影響

 廣嶋清志は家族研究の中で、親子同居率を同居可能率と同居実現率に要因分解するモデルを提起した(以下、廣嶋モデル)。このモデルはある人口集団Aの中に親子同居可能な人口Bがあり、その中に実際に同居を実現した人口Cが含まれており、同居率(C/A)が同居可能率(B/A)と同居実現率(C/B)の積として表されるというものである。これは、ある時点の同居率が同居可能率の影響を受けてしまうため、実質的な同居可能傾向は同居実現率で把握する必要があることを意味している。廣嶋モデルは全国を対象にした検討のみであったが、これを都道府県に適応すると、人口流出が激しいために県内にとどまる人口が少ない地域では親子同居にかかる競合が少なくなって同居可能率が高くなるため、同居実現率の低さを補って見た目の同居率が高いという状況を生じることがありうるということになる。

3.分析方法と結果

 上述の状況を表現するには、人口移動の影響を反映させた地域別・コーホート別の同居可能率を設定する必要がある。今回は国勢調査等の集計データを主として利用し、(1)長男が親と同居する、(2)親は移動しない、(3)長男の純移動率は同一コーホートの純移動率の半分、(4)親の生残率の地域差を考慮しない、といった操作的な定義を与えることによって同居可能率を都道府県別に算出した。同居率を同居可能率で除した値が同居実現率であり、2000年、2005年、2010年の40~44歳男性を分析したところ、同居率との相関関係(沖縄を除く46都道府県が対象)は、同居可能率よりも同居実現率の方が高く、見た目の同居率が実質的な同居傾向の地域的差異を概ね表現しているという結果が得られた。ただし、同居可能率による影響も確認されており、特に都市的地域の親子同居率の低さが同居可能率の低さに牽引されている様子が明瞭に示された。
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