主催: 公益社団法人 日本地理学会
中国と北朝鮮の国境の長白山は標高2720mの成層火山で、約1300年前に巨大噴火を引き起こし、その火口が天池と称される火口湖となった。これ以後破局的な噴火を引き起こしてはいないが、その可能性は常に留意されるべき活火山である。長白山一帯、特に天池とその火口瀬である長白瀑布一帯はジオパークの拠点として年間150万人の観光客を集める場所であり、地すべりなど火山活動以外の災害発生リスクへの留意もあるべきだはないか。
7年前の厳冬期と昨夏に現地を訪れ、若干の現地観察を重ね、今期はAW3D、Ortho画像、Google Earthなどでの地形分析も試みた。天池は直径3-4㎞程度の大規模な湖で、その周辺には地すべり性の大規模なマスムーブメントによる地形と思われる場所が多数みられる。
天池の火口壁周辺では、地すべりの初期兆候とみられるキレツ等の微地形が複数確認できる地すべりの存在が注目される。地すべり地形の背後(斜面上方)に見られるキレツは、次の破壊の兆候となるものであり、このキレツを境にして大規模な地すべりが発生する可能性が高い。地すべりが発生すれば0.5㎞3内外の土砂が天池に崩落することになる。この地変が津波などの連鎖的な災害を引き起こすことが懸念される。火山における大規模な地すべりの発生は、2008年岩手・宮城内陸地震時における荒砥沢地すべりの発生に例を見るように、その多くが地震動に誘発されている。長白山自体の火山性地震のみならず、近隣で引き起こされるあらゆる地震動は誘因として常に懸念される。
地震動発生の可能性とこれを契機とする地すべり発生、その連鎖としての津波、土砂ダム決壊など、長白山の山頂周辺では様々な斜面災害の発生が懸念される。今後は、これらの災害潜在性を的確に把握・評価して、より安全な観光地の経営を志向することが求められるのではないか。