日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P115
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発表要旨
古日記の天候記録に基づく江戸時代末期~明治期の関東南西部における夏季の気候特性
*安藤 成美赤坂 郁美
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抄録

1. はじめに

日本で気象庁による公式気象観測が開始されたのは1870年代である。それ以前の天候については、全国諸藩の日記・日誌や個人の日記の天候記録をもとに復元しようとする試みがなされてきた。古日記を用いた気候復元の研究は多く行われているが、研究の多くは、ある地域の気候を単一の長期に渡る史料をもとに明らかにし、現存するデータと整合性をとる手法をとっている。そのため狭域な地域で得られる複数の史料を用いることができれば、より精度の高い復元が行える可能性がある。そこで本研究では19世紀以前から観測時代にかけて、複数の地点で天候記録が継続的に記されている関東南西部を対象に夏季の気候復元を行うことを目的とする。



2. 調査方法と使用データ

解析に使用する古日記を選定する際には(1)連続した毎日の天気記録が記載されていること、(2)欠損が少ないこと(月の欠損が5日以内)に留意した。解析対象年と期間は、狭域的な地域で重複する日記データが多く得られる1844-1912年6-8月とした。使用する日記は『鈴木平九郎公私日記』、『鈴木日記』、『浜浅葉日記』、『尾崎日記』、『藤沢山日鑑』、『相澤日記』、『石川日記』、『星野日記』、『四歳日録』、『儀三郎日記』、『河野清助日記』の計11日記である。また、日記の整合性を検討する際や、気温の推定を行う際に6-8月の東京都(1875-2017年)と八王子市(1976-2017年)の8月平均気温・月最高平均気温と、6-8月の降水量データも併せて使用した。

古日記の天候記述もとに、各日記の日々の天候を「快晴」・「晴」・「曇」・「小雨」・「雨」・「大雨」・「雷雨」・「雷」、「晴天日」・「雨天日」、「降水あり」・「降水なし」に分類した。降水頻度の復元には「降水あり」の日数を、気温復元には「降水なし」の日数を使用した。



3. 結果と考察

 降水頻度(降水が確認された日数を観測日数(92日)で除した値)の長期変動をみてみると、現在よりも1860年後半以前は降水頻度が少なく、1866年頃を境に降水頻度が多くなり、変動を繰り返しながら緩やかな増加傾向にあることが明らかになった。また、1900-1915年頃に降水頻度が多く確認された一方、1925-1950年頃は降水頻度が少なく平均値を下回る年もみられた(図1)。

梅雨の期間については現在の関東と比較すると、本研究では2番目に降水頻度が多かった1900-1909年が現代の梅雨期と近い持続期間を示した。また、夏季の降水頻度の多寡と梅雨の継続日数には、降水頻度が多いときには梅雨が長く、降水頻度が少ないときには短いという関係がみられた。

月平均最高気温の推定を行った結果、降水なしの日数を説明変数、月平均最高気温を目的変数とし、Y=0.1556X+26.187と定めることができた。推定の結果、1904-1930年頃に寒冷期がみられ、特に1910年を中心に寒冷であったことが確認された(図2)。温暖期は1850年代と1870年代後半~1880年代前半にかけて確認された。先行研究(例えば平野ほか2012,平野ほか2013)においても、同様の気温復元の結果が得られているが、本研究では高温期のピークの変動幅が先行研究に比べ大きく示されている。推定に使用した石川日記は、1890年以前は同時期の他の日記に比べ雨天日数が少なく晴天日数が多い傾向があるため、日記の記述の精度によってより高温に推定された可能性がある。

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