日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 215
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発表要旨
北海道新幹線開業に伴う青森・函館市民の意識変化
*櫛引 素夫
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抄録

1.はじめに
 北海道新幹線は2016年3月の開業から2年目を迎え、開業特需というべき旅客流動やイベントが逓減する一方、市民生活や経済活動において、さまざまな変化が進んでいるとみられる。発表者は、その一端を明らかにするため、2016年秋と2017年秋、青森・函館両市の市民各300人を対象に郵送調査を実施した。回収率は20%台にとどまったが、一般市民を対象とした継続的な調査がほとんど実施されていない、あるいは結果が公表されていない中で、開業が市民の意識や地域にもたらした変化を一定程度、把握できた。

2.主な調査結果
 2016年、2017年とも回答者中、青森市は7割弱、函館市は半数が北海道新幹線を利用しておらず、利用経験者の割合は、ほぼ同水準だった。各項目の回答を総合的に検証すると、函館市民の方が積極的に北海道新幹線を利用し始めているとみられる。調査対象者が異なるため単純比較はできないが、2016年と2017年のデータを対比すると、函館市は北海道新幹線を複数回、利用している人の割合が多い。
 2回の調査とも、青森市の回答者は新幹線で出向く先が函館市とその周辺にほぼ限られ、目的もほとんどが「観光」である。一方、函館市の回答者は行き先が東京・首都圏や仙台、盛岡など東北新幹線沿線に及び、目的も「家族や友人に会いに」「仕事・出張」「観光」など多様である。2017年の調査ではライブやコンサートのため仙台付近へ出かけたり、単身赴任先の静岡県との往来に利用している人々もいた。
 青函間の鉄道利用について、2017年の調査では、特急料金の値上げ、新青森駅・新函館北斗駅での乗り換え発生を反映し、青森市は「減った」と答えた人が「増えた」と答えた人を上回った。また、「函館への関心が薄れた」という回答も複数あった。函館市は「増えた」と答えた人が「減った」と答えた人を上回ったものの、両市とも、北海道新幹線は「早くて快適ながら、高く乗り継ぎが不便で、仕方なく使う」という不満は強く、割引料金の導入を求める人が多い。
 両市とも「移動手段をフェリーに切り替える」、さらには互いの市へ「行く機会を減らす」と答えた人がいたほか、フェリーの利用回数も「増えた」という人と「減った」という人が存在した。これらの結果を総合すると、①北海道新幹線開業が利便性を高め、流動を増大させている面と、フェリーへの不本意な乗船をもたらしている面がある、②新幹線・フェリーのいずれによる移動もせず、往来そのものを控えるようになった人々が存在する-と考えられ、北海道新幹線開業で利益を享受した人と、不利益を被った人への分極が発生している可能性を指摘できる。
 北海道新幹線が「暮らし」「自分の市」「青森県/道南」に及ぼした効果については、開業特需や関連イベントが減少したためか、全般的に2016年より2017年の評価が低い。ただ、対策や効果の情報発信が乏しいと指摘する意見もみられ、連携不足による逸失利益が生じている可能性もある。

3.青函交流の行方
 青函交流の行方について、「観光面」「経済面」「文化面」など5つの観点から予測を尋ねた質問に対しては、全体的に青森市より楽観的な傾向がある函館市でも、2017年調査で「活発化していく」と答えた人は20~35%にとどまり、人口減少なども背景に「衰退していく」とみる人が5~10%程度いた。一方、青森市は「活発化していく」が15~22%、「衰退していく」が8~16%だった。2016年調査では、函館市は観光面の交流が「活発化していく」と予測する人が50%に達していたのに対し、2017年は35%と低かった。青函交流については、2016年の調査時点でも「活発化させるべき」といった期待感の記述が目立っており、2017年の調査時点で、生活上の実感を反映した回答が出てきた形になった。

4.今後の展望
 2カ年の調査を通じ、2市の住民が、互いを身近な存在として意識し直した様子が把握できた。また、料金や利便性の制約を背景に、北海道新幹線を活用する目的や経済力がある人々、不利益を甘受しつつ往来する人々、往来そのものに消極的になった人々、もともと青函交流に接点や関心が乏しい人々など、幾つかの集団の存在が浮かび上がった。これらの集団のマインドや動向が今後、地域政策の形成やその実効性にどう影響するか、上越市が2015年に実施したような、地元自治体等による市民意識の調査が期待される。

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