アムール川を含む寒帯の河川は総じて高い溶存鉄濃度を有しており,特にアムール川流域はオホーツク海域への鉄の重要な供給源と考えられている。また,陸域における溶存鉄動態は陸域の有機物動態とも密接な関係があるため,気候変動と炭素動態の関係理解の上でも重要である。
アムール川本流の複数地点における溶存鉄濃度の長期変動特性の検討からは,1990年代後半に非常に大きなピークが観測されておりこの原因は未解明である。我々は,夏季の気温変動と溶存鉄濃度変動とがよい相関を持つことから,流域に分布する凍土が溶存鉄生成量に及ぼす影響に注目している。本報告では,現地の観測データにもとづいて湿地における永久凍土の活動層厚の変動を推定し,1990年代後半における気温変動が活動層厚に及ぼす影響を評価した結果を報告する。