抄録
◆はじめに
本研究は,遊漁船業が盛んな地域が海上釣り客を津波から助けるための対策整備を検討することを目的とし,津波避難救援行動3パターンを比較・検証した.
「遊漁船業の適正化に関する法律」の第一条には,遊漁船の利用者(本研究では海上釣り客と呼ぶ)の安全の確保が明記されており,海上釣り客を受け入れる地域においては,対策が急務となっている.服部ほか(2017)では,団体釣り客の避難行動を検証した結果,避難行動の滞留が確認され,団体釣り客向けの一次避難場所やその避難場所へより近い着岸地点の選定が課題としてあげられた.これらの課題に対し,遊漁船業者や住民とのワークショップを重ねて,団体客向けの一次避難場所および着岸地点の候補地を選定し,実際に団体釣り客を円滑に避難させられるか検証した.さらに,救援行動として海上で作業をしていた船が海上釣り客を救助しながら避難できるか検証した.
◆対象地域
対象地域は,三重県度会郡南伊勢町古和浦とする.南伊勢町は,海岸線延長が245.6kmにおよび,南海トラフ巨大地震による甚大な津波の被害が想定されている.最大津波高22m,平均津波高12m,津波到達時間が最短で8分と予測されている(内閣府2012).南伊勢町には海上釣堀や釣り筏などを提供する遊漁船業者が多く,修学旅行の学校団体客をはじめ多くの海上釣り客が訪れる地域である.
◆GPS調査概要
町の防災訓練日(2017年9月2日)に,海上釣堀や釣り筏から一次避難場所までの避難行動調査を,愛知工業大学,岐阜聖徳学園大学,愛知県立大学の学生調査員がGPSを装着して実施した.学生調査員は,古和浦の海上釣堀や釣り筏に訪れるのは初めてであり,調査実施にあたり避難場所と経路は知らされていない.したがって,調査員の動きは,初めて当地を訪れた海上釣り客とみなすこととした.
大津波警報発令後,3隻(A~C)が下記のように異なる動きをし,着岸地点へ向かった.
A.海上の養殖場から直行で古和浦漁港へ向かう漁業者
B. Aの船と同じ場所から出発し,途中3ヶ所の釣り筏で釣り客を乗せながら古和浦漁港へ向かう漁業者
C.停泊している桟橋から海上釣堀の団体釣り客を迎えに行き,団体釣り客向け着岸地点へ向かう遊漁船業者
3隻には教員調査員が同乗し,船のGPSデータを取得した.着岸後,学生調査員は誘導標識に従って,一次避難場所へ避難した.
◆GPSデータ分析結果
各船の避難救援行動について,GPSデータから分析した結果,海上の養殖場から直行した場合と,3ヶ所で釣り客を乗せて港に行った場合とでは,ほとんど時間が変わらなかった.したがって,点在する釣り筏に対しては,帰港中の船の協力を得ることが有効といえる.団体釣り客に対しては,着岸地点までは円滑に避難できたが,着岸後の進む方向に迷いが生じたため,着岸地点に釣り客向け看板設置が必要である.今後は今回の検証結果をふまえ,団体釣り客向け一次避難場所および着岸地点マップ作成が課題である.