日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 924
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発表要旨
縁辺地域における土木業の役割に関する考察
- A県B市C地区を事例として-
*白井 伸和
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抄録
1.目的と背景 
 1990年代まで過疎地域では地元建設業者を保護するために、自治体による公共事業の発注の指名業者を地元建設業者に限定する保守的な慣行が行われてきた。過疎地域における公共事業の配分において、地元建設業者に対する保護的な自治体の政策の空間的帰結として、公共事業の排他的受注圏が成立していることが報告されている(梶田1998)。しかし、1997年に公共事業が削減され、2000年代にも公共投資が削減され、同時期に「平成の大合併」や入札制度の変革などの時代的な変化を受けて過疎地域の建設業も変質を迫られてきた。保守的な地方において、特に過疎地地域指定を受け、過疎債をはじめとして起債に有利な自治体では、1990年代前半までは公共事業が増大し建設業が盛んであったが、1990年代後半から、公共事業の大幅な削減で、建設業の経営が苦境に入った。
 本発表はこのような時代的な変化に伴って、過疎地の地元建設業者がどのような経営的な影響を受けているのか、そして伝統的な排他的受注圏の空間パターンが維持・存続されているのかを検証し、災害支援等も含め地域維持のために重要な役割を果たす地元建設業者の経営存続を支援するための制度的な課題を考察した。
 今回の対象地域はA県B市C地区である。C地区はB市の中心地域から距離が離れた縁辺地域である。B市は2004年に当時のC村を含む7箇町村での市町村合併を行った。現地調査を行い、時代的な変化を比較し、当該地区の雇用や人口の減少のなかで、公共事業の減少による地元建設業者の営業利益低下傾向と、合併後においても旧村単位での排他的受注圏の存続を確認した。

2.結果
 B市では、地元建設業者を保護と維持するために、指名競争入札や地域要件付き一般競争入札等に代表される保護制度を維持している。縁辺地域における地元建設業者は自地域の排他的受注圏を超えて公共事業を受注することは極めて少ない。その理由として、縁辺地域では民間による投資が極めて少なく、地元建設業者は必然的に公共投資への依存度がきわめて高い。調査地域のような過疎に属する縁辺地域では、地元建設業者全体の年間受注金額が、自地域を管轄する発注者による公共事業の年間発注金額にほぼ一致する推察される。
 最近のC地区の公共事業の受注金額は、地域内に地元建設業者を1社しか維持できないレベルまで低下している。現在3社が存立し続けているが、採算を割って存立し続けているに過ぎない。1社のみしか存立し得なくなった場合、災害対応するにしては広大な地域を管理しなくてはならず、緊急な災害に対応する人員や重機の減少から、地域が災害時に初動体制に遅れが出ることも十分予想される。
 B市では、合併前の旧村単位での排他的受注圏が存続している。市町村合併の影響及び2000年代における自治体での一般競争入札の本格的導入によって、旧村単位の排他的受注圏が崩壊している合併自治体も多くみられる。

参考文献
梶田真(1998)「奥地山村における地元建設業者の存立基盤島根県羽須美村を事例として」『地理科学』60巻4号 pp.237-259.
白井伸和(2017)『町村合併に伴う過疎山村の地元建設業者の受注圏の変化と災害対応』埼玉大学,博士論文.
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© 2018 公益社団法人 日本地理学会
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