日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 918
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発表要旨
「ドイツにおけるヨーロッパ大都市圏」の機能的結合に関する地域的特徴
*伊藤 徹哉
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抄録

I.はじめに
 ドイツでは,全国規模での空間整備政策の枠組みとして「ドイツにおけるヨーロッパ大都市圏 Europasche Metropol- regionen in Deutschland(以下,DMR)」が1990年代中盤に導入された。DMRは,「企業・経済的・社会的・文化的な発展のモーターとして,指導的・競争的機能を有する」(Adam und Stellmann, 2002)と位置づけられている。
 本研究は,DMRの機能的な役割の概要をまとめ,11のDMRのうちミュンヘン大都市圏を事例に,空間政策上のまとまりとしてのDMRの機能的結合の地域的な特徴を検討することを目的とする。DMRの機能的結合を分析する際,EUの欧州委員会が用いる大都市地域Metropolitan Regions(以下,EUMR)に着目し,EURMとDMRのそれぞれの圏域の比較に基づいて,機能的な結合関係の地域的な特徴を明らかにする。

 II.「ドイツにおけるヨーロッパ大都市圏DMR」の機能
 ドイツでは,実質的な地域連携団体は,急速な都市化の進行を背景に,行政域を越えた経済計画や地域開発計画が必要とされた1970年代以降に全国的に拡大した。シュトゥットガルト(1974年発足)やフランクフルト(1975年発足)などにおいて周辺自治体との地域連合が発足した。
 1990年代中盤以降,空間整備政策の枠組みとして,全国規模での大都市圏が設定され,1995年の空間秩序計画関係閣僚会議MKROにおいて7DMRが示され,2005年に現在の11地域となっている。DMRに期待される基本的な役割・機能は,大きく三つあり,第1に公的機関や民間の経済主体による重要な決定に関する,決定・コントロール機能,第2に革新的知識や新たな価値観を通じた競争力の創造に関する,イノベーション・競争機能,第3に財や情報,人間の国内外との交流に関する,ゲートウェイ機能である。
 11のMRDのうち,ミュンヘン大都市圏は,バイエルン州南部に設定され,ミュンヘン,インゴルシュタット,アウクスブルクなどの6主要都市Kreisfreie Stadteと25郡にまたがる地域に設定されており,運営と協議の場として1995年に都市間連携組織が設立され,2008年に現在の社団法人へ改組された。上記の公的主体のほか,40の基礎自治体や150を超える民間企業や経済・社会団体が構成員となり,都市間連携や対外的な競争力強化,環境保全活動などの取組みを実施している。政策的課題に対応した経済圏としてだけでなく,経済情報や商取引,物流などを通じて連携する経済圏としての空間的枠組みとして理解できる。

III.機能的な結合関係の地域的な特徴
 EUMRは,EUの地域統計や地域政策のために導入された地域統計単位NUTSの整備にあわせ,欧州委員会の管理するeurostat HPで公開されている。その圏域は,人口密度と人口分布から定義される「都市」と,通勤人口に基づく「通勤圏」から構成され,人口規模は25万人以上となっている。通勤圏の考え方に基づく大都市圏であり,日常的に人的・物的交流の見られる日常生活圏と位置づけられる。
 2013年においてEUMRは,クロアチアを除く27か国に274設定されており,件数の多い国は,ドイツ66,イギリス35,フランス32である。EUMRはNUTS3を基準に設定され,NUTS3はドイツでは主要都市と郡レベルに該当する。国内有力州のバイエルン州内には,11のEUMR設定されており,いずれも「都市」中心から半径15~30km程度が圏域となっている。州北部のニュルンベルクからミュンヘンにかけて,複数のEUMRが主要鉄道・高速道路に沿う形で連続して分布する。
 EUMRであるミュンヘン圏は,同市の半径約30km圏の9つの自治体から構成される。ミュンヘンと周辺地域は,鉄道,高速道路などの交通網で結ばれており,こうした高い近接性を背景として日常的に人的流動が発生している。
 EUMRの圏域と,MRDのそれを比較すると,MRDの面積はかなり広い。MRDのミュンヘン大都市圏は,複数のEUMR(ミュンヘン圏,インゴルシュタット圏,アウクスブルク圏,ローゼンハイム圏,およびレーゲンスブルク圏の一部)と,その他の郡から構成されている。個々のEUMRは,圏域内で中心都市と周辺地域とが機能的に結びつく日常生活圏を形成する一方,それぞれのEUMRなどが,機能分担しながら,情報や物流などを通じて経済的に連携・結合する経済圏としてのMRDを成立させている。

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