抄録
1.問題意識
現在われわれの目に映る都市の姿とは,基層をなす地形・水文環境の上に,町割・地割といったフレームが形成され,そこに人間による土地・空間利用が積み重なることで生み出されている(東京大学都市デザイン研究室,2015)。いかなる都市にも,時間とともに蓄積された独自の文脈があり,これが現在の都市空間に固有のかたちを与えている。こうした都市の持続的文脈を読み解くことは,まちの個性を活かした都市発展が問われるグローバル化の時代において,今後のあるべき方向性を示すことにもつながるのではないだろうか。
都市の持続的文脈を明らかにするなかで,今回は都市の緑に注目したい。自然環境を構成する要素のなかで,緑は,地形や水文などと比べて変化のサイクルが短い。しかし,変わりゆく姿を確認できるからこそ,人間が意識的・主体的にかかわるものでもある。そうした人と緑のかかわり合いや,その結果としての緑の立ち現れ方は,同じ都市の中であっても他の持続的文脈(地形・水文環境,町割・地割,土地利用など)の条件に規定されながら,大きく異なることが想定される。
このような問題意識から,本研究では名古屋市の歴史的町並みに現れる緑に着目し,エリアに特徴的な緑のパターンを明らかにするとともに,そうした緑の現れ方に,都市の持続的文脈の変化がどう関わっているのかを考察することを目的とする。
ここでいう歴史的町並みとは,名古屋市が指定する「町並み保全地区」を指し,今回はそのうち「白壁・主税・橦木」(以下,白壁エリアと称す)を対象とする。歴史的町並みを取り上げる理由は,長きにわたって人と土地とのかかわり合いのプロセスが刻印された場所として,都市に蓄積された持続的文脈を読み解く上で相応しい対象と考えるためである。
2.研究方法
まずは現在の緑の現れ方を把握するため,2017年10月から12月にかけて,白壁エリアの緑の現地調査を行った。2か所の調査地区(80×400m)を設定し,道路から視認可能な範囲の緑を対象として,主に観察により樹木の分布や位置,樹種,樹高,樹形などを調査した。その結果に基づき,緑の現れ方のパターン化を試みた。続いて,こうした緑の現れ方の背景を明らかにするため,航空写真,都市計画図,住宅地図など,過去の地図資料を使った分析を行う。今回はとくに「町割・地割」,「土地利用」の変化に焦点を当て,こうしたまちのフレームや土地利用の変化が,現在の緑の現れ方にどう関係しているのかを,緑被率の変化などと併せて考察する。発表当日は,現地調査のデータを提示しながら,上記の分析結果について報告を行う。
[文献]
東京大学都市デザイン研究室編 2015.『図説 都市空間の構想力』 学芸出版社.
