抄録
1.研究目的
日本各地で中心商店街活性化に向けたイベントは多く実施されてきたが,いずれも一過性のもので継続されていない場合が多い.今回取りあげる「まちゼミ」は,商店主が講師として商品に関する知識や情報を客に教えるイベントである.愛知県岡崎市で始まり,現在約300か所で実施・継続されている.まちゼミは,まちづくりのための企画として広く知られているが,まちゼミに関する研究は岡崎市を対象に店舗調査・ヒアリング・資料分析を行った内藤(2017)のほかは乏しい.本研究では,全国各地で実施されているまちゼミについて,その特徴と課題・可能性を明らかにする.
2.研究方法
本研究では,まず文献等から様々な中心商店街活性化事業の長短所を整理し,当事業におけるまちゼミの特徴を位置づけた.次に,各地域のまちゼミについて,Webページや資料・文献等で実態を把握した.3点目に,まちゼミを実施している地域の担当部署にアンケートを送付し分析した.以上を踏まえ,中心商店街活性化事業としてのまちゼミの特徴や課題・可能性を考察した.
3.結果
様々なまちづくり活動や中心商店街活性化事業の中でも,まちゼミは(1)必要なモノ・費用が少なく実施が容易,(2)日常の買い物として中心商店街を利用する地元住民が対象,(3)顧客と店主とのつながりができることで固定客となり得る,(4)必ずしも商店街全店舗が参加する必要はなく,参加意志のある店主のみで実施できる,といった点を長所とする.一方,①チラシによる広報が主流であるため,外部から顧客を呼び込んで商店街を利用してもらうことがない,②まちゼミ受講にあたって事前に予約する必要があるため,講座当日に気軽に受講することが容易ではない,といった点が課題とされる.
Webページや文献等の資料分析によって,特色ある講座の実施など,独自の発展を遂げているまちゼミが存在することが分かった.
アンケート調査によって,補助金を活用している地域が多いこと,金銭面で自立できていても運営面で自立できていない地域が多いこと,売り上げが増加した地域が少ないこと,岡崎と同様に広報が不十分で認知度が低い地域が多いことが明らかになった.
4.考察
本来,まちゼミは補助金に依拠せずに実施できるイベントとして注目されていたが,実際は補助金を活用している地域が多く,まちゼミのもつ特徴が全国で活かされていないと考えられる.
アンケートにおいて,運営を商工会議所から店主有志に移行できない旨の回答が多く,担い手不足や店主の意欲面などの課題もみられた.店主有志が主体となる活動のため,積極的な担い手がいない場合は存続するのも難しい.
個人店の強みを活かしたまちゼミだが,中心商店街活性化の観点から捉えると,売り上げ増加や新規客増加,固定客増加に結び付いた地域は少ない.店舗を知るきっかけにつながった地域は多いため,継続して実施することで,まちゼミの効果が高まると考えられる.
広報が不十分で認知度が低いことを課題と捉え,対策に取り組んでいる地域では,売り上げ増加や新規客増加,固定客増加の効果がみられた.まちゼミの企画の特徴を押さえた上で,リーダーを育成することで,まちゼミの効果が現れ,店舗の売り上げ増加に寄与すると考えられる.
文献
内藤 亮 2017.岡崎市まちゼミにみる地方都市中心商店街の再生の取り組みと課題.新地理 65(3):51-68.