抄録
北海道と北方四島の河川流域を対象に、通年にわたる河川水の採水・化学分析を実施し、対象とした河川流域の土地利用・土地被覆割合との相関関係を見ることによって、河川の溶存鉄濃度を決める土地要因の分析を行った。本報告では、特に流域の森林面積比に着目した結果を報告する。土地利用・土地被覆状況と河川水中の溶存鉄濃度の関係を調べるため、異なる土地利用・土地被覆が卓越する以下の5流域を調査対象とした。①森林河川としての石崎川(広葉樹林)と天の川(針葉樹林)流域、②湿原河川としての猿払川流域、③畑作農地が広域に広がる網走川と酪農地が広がる風蓮湖集水河川流域、④都市河川の豊平川、そして⑤人為的改変の少ない自然河川を代表する国後島北部の音根別川である。これらの河川の本流・支流の複数地点において(音根別川を除き)季節を通じて河川水を採取し、溶存鉄濃度、栄養塩濃度、溶存有機炭素濃度を測定するとともに、流域の土地利用・土地被覆状態の図化を行なった。これらのデータを用いて、土地利用・土地被覆と各種溶存成分との相関関係を求めた。その結果、流域の森林面積比と河川水中の溶存鉄濃度との間には、負の相関関係が認められた。高い溶存鉄濃度が記録された風蓮川と猿払川には、湿原が広く分布する。これは、北海道の河川においては、湿原が溶存鉄の起源であることが強く示唆する。一方、音根別川流域は広く森林に覆われているが、やや溶存鉄濃度が高い。海岸付近に広がる後背湿地が溶存鉄の局所的な供給源として働いている可能性がある。