日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P101
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発表要旨
広島県庄原市の一集落における16年間の植生変化
*鈴木 重雄
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抄録
はじめに

日本の農山村で農業に付随して維持されてきた草地や林野は,その必要性の低下や当該地域の過疎化,高齢化の進展により,植生の遷移が進展し,空間配置の変化が顕著に生じている.特に,使役家畜の餌や,屋根材,肥料の原料の供給地であった半自然草地は,急激に減少している.本研究では,半自然草地の多く存在していたとみられ,かつ近年の人口減少が顕著な地域において,農山村周辺の植生土地利用がどれだけ変化をしたかを明らかにするために,中国山地中央部の一集落を対象に土地利用・植生図の比較を行った.



調査地域と方法

調査地域は,広島県庄原市東城町宇山中集落を対象とした.標高460~630 m程の起伏のある石灰岩台地であり,最寄りのアメダス観測点,庄原(標高300 m)の年平均気温は12.4℃,年降水量は1467.0 mmである.調査地域を含む旧東城町では,1985年から2015年に人口が36.8%減少し,高齢化率は20.4%から44.4%に増大している.本調査地周辺では,環境省が準絶滅危惧種に指定しているミチノクフクジュソウが畦畔草地に自生しているものの(橋本ほか 2007),過疎化,高齢化の進展による耕作放棄も顕著であり,今後の保全の継続が課題となっている.

調査は,1988年,2004年の空中写真(林野庁撮影)の実体視により,相観植生図を作成し,GIS(Esri社製Arc GIS 10)上でオーバーレイ解析を行った.



結果および考察

1)相観植生面積の変化

1988年には134 haであったスギ・ヒノキ高木林が,2004年には223 haとなり,大きく面積を増やしていた.この多くは,1988年にスギ・ヒノキ低木林や造林のための地拵えをしていた造成地であり,造林木が生長したために生じたとみられる.落葉広葉樹林は33 haから50 haへと増加しており,アカマツ林からの変化が大きかった.マツクイムシによる松枯れによって,アカマツが枯死をしたことにより,落葉広葉樹林に変化したものとみられる.

耕作地では,水田が18 haから12 haに減少し,畑や草地(耕作放棄地)へと変化していた.

2)草地分布の変化

1988年には草地が,耕作地と樹林地の間に細長く存在する様子が判読できたものの,2004年には,これが低木林に置き換わっている箇所が多く見られた.耕作地の放棄に至らないまでも,営農意欲が低下することにより,周辺の植生管理が粗放化したためであると考えられる.これらにより,これまで維持されてきた耕作地周囲への人為攪乱が減少し,人為攪乱に依存して存在していたミチノクフクジュソウの生育環境が悪化したことが考えられる.
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