抄録
1. はじめに
北太平洋高気圧(North Pacific High :NPH)の変位は、台風の進路や前線の位置を決定し、日本における夏季の気温や降水量を変動させる要因となっている。永田・三上(2012)では夏季(6~8月平均)のNPHの西縁部を定義し、日本の夏季の気温との関係を示している。Nagata and Mikami (2016)でも同様の手法で、NPHと夏季降水量との関係性を明らかにしている。しかし、6~8月は月により気候特性が異なるため、本研究では6~8月の月ごとのNPHの分布と日本の気候との関係について、月ごとのNPHの長期変動特性と日本の気温・降水量との関係を明らかにすることを目的とする。
2. 使用データと解析方法
本研究では1890~2016年の6~8月におけるHadSLP2rの月平均海面気圧データ(Allan and Tara, 2006)を使用した。気温と降水量データは1897~2016年の6~8月における日本の気象官署26地点のデータを使用した。まずNagata and Mikami (2016)の手法を参考に月平均海面気圧データから1011hPa等圧線が最も西に張り出している地点を西縁部と定義し、その東西・南北方向の変動を示す指数を作成し、各地点の気温・降水量との相関係数を月ごとに算出した。
3. 結果と考察
NPHの南北変動は月ごとに異なる長期変動特性を示した。特に、7月と8月は1980年代以降、年々変動が大きくなっていることがわかったほか、8月は1950年代以降に南偏傾向がみられた(図略)。
またNPH西縁部指数の南北変動と日本の夏季の気温との間には有意な相関がみられた。特に6月のNPH西縁部指数は、1920年以前には北・東日本、1950年前後には全国、1990年代後半には九州を除く全国の気温と有意な正相関がみられた(図1左)。7月は北日本では1920~1940年代と、1970~1980年代にかけて有意な正相関がみられた。有意な相関がみられた時期のNPH西縁部の位置をみると、6月は20~25°Nに、7月は25~30°Nに分布しており年々変動が小さく、分布が極端に偏る年はほとんどみられなかった。8月には1940年代に北日本で有意な正相関がみられる一方、九州では負相関がみられた(図1右)。北日本と九州で相関の正負が異なる要因として、NPH西縁部が他の期間と比べて北偏(35~40°N)する年が多かったことが考えられる。
NPH西縁部指数の南北変動と日本の降水量との相関係数を算出した結果、近年有意な相関を示す地点が増加していることがわかった。6月は西日本を中心に1960~1990年頃に有意な正相関がみられ、7・8月は西日本や東日本を中心に有意な負相関がみられた。これらの結果は、NPHの南北変動とともに、その外側を通る暖湿流も同様に南北方向に変動することに対応していると考えられる。6月は20°N ,130°E付近を中心に西縁部が位置しており、NPHが南偏(北偏)すると日本の南海上(西日本付近)に暖湿流が流れるために正相関を示すと考えられる。一方、7月の西縁部は25°N ,130°E付近に、8月は40°N ,135°E付近に位置しており、6月よりも相対的に北もしくは北東にシフトしている。NPHが北偏(南偏)すると北日本(関東から九州の太平洋側)付近に暖湿流が供給されるため、西日本では負相関を示すと考えられる。そのため今後は暖湿流の供給元である北西太平洋域の海面水温とNPHとの関係さらに調査していきたい。