抄録
1.はじめに
サンゴ礁海岸において,沖波は水深が急激に浅くなる礁縁付近で砕波し,サンゴ礁上を進む際に礁地形の影響をうけ,汀線に到達するまでに多くのエネルギーを失うことが知られている本研究では,サンゴ礁海岸における汀線砕波波高の推定式を作成することを目的として,以下の手順で研究を進めた.まず小型造波水路内にサンゴ礁を模した海岸(ステップ)を設定し,沖波の波高,サンゴ礁の水深,波の周期の異なる初期条件の下で,サンゴ礁上を進行する波の波高を計測し,波高減衰の規定要因を定量的に調べ,実験式の作成を目的とした実験を行った.次に,波の野外観測を実施し,得られた実験式に基づき,野外に適用可能な波高減衰に関する基本式の作成を試みた.
2.室内実験と実験式の作成
造波装置付きのアクリル製の水路(幅4 ㎝,長さ130 ㎝,高さ19 ㎝)の他端に,サンゴ礁を模した100 cmの長さをもつアルミ製の平坦なステップを設置して波を作用させた.ステップ上を進行する波を水槽の真横から観察した.礁縁部を基準とし,そこからの水平距離(X)離れた地点での波高(Hx)を5~10 cm間隔で計測した.なお礁縁部での波高(H0)とする.実験は波の周期(T)を0.7~1.5 sec,水深(h)を0~2 cm,沖波の波高(H’)を1~2 cmと変化させ,計37ケース実施された.実験結果から,波高減衰の程度を示すパラメータ(Hx/H0)は X(cm),h(cm),T(sec),H0(cm)に関係することがわかった.次元解析と回帰分析により,Hx/H0は次式で表された:Hx/H0 =0.058(h/H0 )0.8(gT2/X )0.5
3.野外観測と基本式の作成
野外データを収集するために,沖縄島の海岸において,礁縁部での波高(H0),汀線砕波波高(Hb),Tに関する波浪観測を行った.H0とHbの計測はハンドレベルと標尺を用いて,Tの計測はストップウォッチを用いて行った.
実験式のHxについてHx=Hbと仮定し,野外データを用いてHb/H0と(h/H0 )0.8(gT2/X )0.5との関係を調べた.その結果,野外における波高減衰の基本式は次式で与えられることがわかった.Hb/H0=0.55(h/H0 )0.8(gT2/X )0.5
この式から汀線砕波波高の推定が可能となる.
付記 本研究は,公益財団法人国土地理協会 平成28年度学術研究助成により実施された.