抄録
1.はじめに
千葉県屏風ヶ浦は銚子市から旭市にかけて東西に約9 kmにわたる軟弱な地質の海食崖である.崖の後退速度が大きいことから,1960年代から2008年にかけて侵食防止のための消波堤が設置された.その結果,現在の屏風ヶ浦には崖から供給された岩屑の堆積により形成された大小様々な崖錐が発達する.本研究では,屏風ヶ浦の崖錐を対象として,崖錐の高さと海食崖の高さを計測し,消波堤の設置時期との関連で崖錐の発達について考察することを目的とする.さらに,かつて縄文海進時に海食崖であった飯岡台地西縁の段丘崖にみられる崖錐のデータも調査し,崖錐発達の長期的変化についても考察した.
2.調査地域の概観
屏風ヶ浦は,崖錐の規模と形成時間との関係を調べるのに適した調査地域である.その理由は,(1)屏風ヶ浦には消波堤設置後に形成された崖錐が存在すること,(2)崖錐の形成が消波堤設置直後に開始されたと仮定することにより,消波堤の設置時期から現在までの経過時間を崖錐の形成時間(T)とみなせること,(3)消波堤の設置時期は区間によって異なり,崖錐の形成時間は場所によって10~50年という違いがみられること,である.屏風ヶ浦の構成物質と同一である飯岡台地の段丘崖には,縄文海進(約6000年前)後の離水によって形成されたと考えられる崖錐がみられる.これらは数千年オーダーの経過時間によって発達した崖錐データとして利用できる.
3.調査方法
同一時期に設置された消波堤区間ごとにできるだけ大きな高さをもつ崖錐を選び,レーザー距離計を用いて縦断形測量を行い,崖錐の高さ(H)や海食崖の高さ(H0)を求めた.飯岡台地の崖錐は樹木などの植生に覆われており,現地測量が困難であったため,2500分の1地形図を用いて縦断図を作成し,崖錐の高さや段丘崖の高さ(H0)を読み取った.
4.結果・考察
崖錐の発達程度を示す指標として,崖の高さ(H0)に対する崖錐の高さ(H)の比(H/H0)を採用し,屏風ヶ浦における崖錐の形成時間(T)との関係をみた.Tが長いほど,H/H0が大きくなる傾向が見られた.さらに飯岡台地のデータを加えて考察したところ,崖錐のH/H0の時間的変化は等速ではなく,Tが大きくなるにつれて減少するということがわかった.