抄録
1)はじめに
平成 29年 7月に九州北部豪雨では,福岡県朝倉市の筑後川右岸支流域において,多くの土石流・土砂流や斜面崩壊による大規模な地形変化が引き起こされた.本災害により出現した露頭からは,過去の土石流・土砂流イベントの痕跡が見出されており,今回のイベントと同様のイベントが過去にも繰り返し生じてきたことが示唆されている(矢野ほか,2017).今回のようなイベントが過去にも生じてきたのか,生じたならばどのようなイベントだったのか,という観点に立った地形発達史的研究を進めることは,地形学が独自に防災・減災に貢献する点において重要である.また,イベントが流域の地形発達においてどのように寄与してきたかを明らかにすることは,山地河川の土砂移動・地形発達プロセスを理解する上で重要である.本地域周辺における地形発達史は黒田・黒木(2004)の研究があるが,テフラによる年代指標に乏しいほか,段丘面の本-支流性についての言及はなされていない.本発表では,筑後川支流域における現地調査で見出した,過去のイベントの痕跡と考えられる地形および露頭について報告し,本地域の地形発達史について議論する.
2)研究手法
豪雨による地形改変が顕著だった筑後川支流5河川(奈良ヶ谷川,北川,寒水川,白木谷川,赤谷川)において2017年8月以降に現地調査を行い,露頭観察,新旧イベント堆積物や火山灰等の年代試料の採取を行なった.火山灰はSEM-EDSにより火山ガラスの主成分化学組成を測定し対比した.
3)結果および考察
北川の中流では,2017年豪雨イベントにより形成された段丘Ⅰを含めて4段の段丘地形が発達する(Fig.1).これらの段丘は,花崗閃緑岩の基盤の上に淘汰の悪い礫層が載り,表層部は土壌化している.このことから,2017年よりも古い時代に少なくとも3回,2017年と同様の地形変化イベントが繰り返されてきたことが示唆される.なお,各段丘面間の比高は1~2 m程度であり,段丘Ⅲ,Ⅳ上には住居が立地していた.今後,木片や火山灰を用いて各段丘面の形成年代を明らかにし,イベントの発生間隔を考察していく予定である.
白木谷川の下流では,甘木Ⅰ面を切る侵食段丘面を構成する地層が観察された(Fig.2).標高47 mの高さまで厚さ2 m以上の安山岩礫主体の円礫層が見出され,その上部には厚さ20 cmの火山灰混じりの砂層が挟在し,火山灰層の上には,花崗閃緑岩・片岩・凝灰岩の角礫~亜円礫により構成される砂礫層が載る.火山灰はbw型火山ガラスを多く含み,この火山ガラスはATが主体であるが,一部はAso-4に対比された.Aso-4は筑後川上流の火砕流台地が起源であると考えられ,ATの降下とほぼ同時期にAso-4が混入し,フラッドロームとして堆積したと推測される.本・支流域の地質および礫の円磨度を踏まえると,AT層より下位の円礫層は筑後川本流が運搬し,上位の角礫層は支流が運搬したと推定される.したがって,ATの降下期以降に,白木谷川下流域では,本流の段丘を掘り込んで支流の段丘面が発達したと考えられる.今後,段丘面や段丘構成層の本-支流性の識別と編年を進め,本地域の地形発達を詳細に議論する予定である.
引用文献
黒田圭介・黒木貴一(2004)日本地理学会発表要旨集,65,81.
矢野健二・矢田純・山本茂雄・細矢卓志(2017)日本応用地質学会九州支部HP,2017.7.31掲載,2018.1.15最終閲覧.
