抄録
1.はじめに
本研究では東京都区部を対象に、ひとり親世帯の地理的分布および集積地を明らかにすることを目的とする。Winchester(1990)は、「ひとり親世帯は先進諸国の中で急速に増え続けている家族類型であるが、地理学者の間ではその地理的分布や社会経済的な特徴については未だ研究が不充分である」(p70)と指摘している。日本では母子世帯の住居問題を軸に東京都区部の分布を示した研究(由井・矢野、2000)や、沖縄の母子世帯が直面している就業・保育・住居問題を総合的に分析した研究(久保・由井、2011)があるが、研究蓄積が限られている。厚生労働省の調査(2015)によれば、ひとり親世帯は絶対数・割合共に年々増加を続けており、以前にも増して大きな問題となっている。本研究では、東京都区部に居住するひとり親世帯の地理的分布および集積地の状況を明らかにする。なお、本研究では先行研究で触れられることの少ない父子世帯についても対象とする。
2.分析手法
統計データと地理情報システム(GIS)を組み合わせ、ひとり親世帯の地理的分布を示す。統計データは東京都が公開している平成12、17、22年の国勢調査小地域統計データを用いる。当該データは小地域毎の父子・母子世帯数が記されており、それぞれを核家族世帯数で割ることで「父子世帯率」と「母子世帯率」を求め、その値を分析で使用する。GISを用いた分析では、父子・母子世帯率を用いてコロプレスマップを作成し、分布状況を概観する。それに加え、Global Moran's I統計量とGetis-Ord Gi*統計量を求め、ひとり親世帯のホット/コールドスポットの特定を行う。
3.分析と解釈
分析結果の例として、図1に平成22年の父子・母子世帯率のGetis-Ord Gi*統計量に基づくホット/コールドスポットを示す。ホット/コールドスポットは信頼区間の設定(90,95,99%)により三段階に分かれており、赤はホットスポット、青はコールドスポットを表す。父子世帯の集積としては、足立区や中央区の一部でホットスポットの存在が確認できる。一方、母子世帯は足立区の広範な地域を初めとし、中央区、港区、新宿区、大田区、江東区、墨田区、板橋区、江戸川区の広い範囲でホットスポットが確認でき、父子世帯とはホットスポットの領域が大きく異なる。また、コールドスポットは父子世帯では世田谷区で小さく認められる程度であるが、母子世帯は世田谷区~杉並区や大田区の一部でコールドスポットが認められ、母子世帯と同様領域が大きく異なる。これは、父子世帯数が最大の地区でも15世帯と、その数が母子世帯の140世帯と比較すると少ないため、差異が生まれにくいことが理由の1つと考えられる。集積の傾向としては、平成12年、17年、22年間で大きな変化は見られないが、ホット/コールドスポットの領域に変化が生じていた。
4.おわりに
本研究では、複数年時の統計データおよびGISと空間統計手法を用いることで、ひとり親世帯の地理的分布およびその時系列変化を把握することが出来た、今後は、ひとり親世帯の集積地及びその変化の地理的要因や、父子・母子世帯の地理的分布の差の要因等について明らかにしたい。
・主要参考文献
厚生労働省 2015.ひとり親家庭等の現状について
(http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-1190000
Koyoukintoujidoukateikyoku/0000083324.pdf)
久保倫子・由井義通・久木元美琴・若林芳樹 2011. 沖縄県
におけるひとり親世帯の就業・保育・住宅問題 地理空間
4-2 81-95
由井義通・矢野桂司 2000.東京都におけるひとり親世帯の
住宅問題 地理科学 Vol.55 no.2 pp77-98
Winchester H.P.M. 1990. Women and children last: the
poverty and marginalization of one-parent families
Transaction of the Institute of British Geographers,
New Series, 15: 70-86