日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 739
会議情報

発表要旨
47都道府県を展示する
「d47」と現代の地域文化消費
*濱田 琢司
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1.地域文化と「デザイン」

 2000年前後より,地域の「伝統的」な物産やもろもろの行事などに,「デザイン」が付加されている状況が良くみられるようになってきている。日本酒や物産のパッケージ,手工芸などのパッケージや商品それ自体,地域の文化イベントなど,様々な対象において,そうした「デザイン化」が行われている。一方で,こうした状況のなかにあって,まったく「デザイン」されていない物産もまた注目されることがあり,一部のセレクトショップなどにおいて,そうしたものが扱われてもいる。前者では「デザイン」が,後者では「非デザイン」が,それを価値づける要素となっており,地域文化の現在的な消費を考えるうえで,「デザイン」という要素は,重要なものの一つとなっているといえる。本報告では,こうした地域文化と「デザイン」との関わりの一側面を D & DEPARTMENT PROJECTという企業と,ここが手がける「d47 MUSEUM」というギャラリーおよびその企画から検討する。



2.D & DEPARTMENT PROJECTとナガオカケンメイ

 D & DEPARTMENT PROJECT(以下,「D.」とする)は,2000年に,デザイナー・デザイン活動家のナガオカケンメイ(1965-)を代表に,インテリアなどのリサイクル・販売を手がける会社として設立された。「D & DEPARTMENT」というショップもオープンさせ,廃盤商品のデットストックなどを多く取り扱っていく。その際に,「息の長く続いている,いいデザイン」と定義される「ロングライフデザイン」をキーとして,そうしたものの再評価や,廃盤となったかつての「ロングライフデザイン」の復刻事業などを展開することとなる。

 ナガオカケンメイが,D.において,地域の文化に関連する事業を展開していくことになる契機の一つは,2008年に銀座松屋において開催された「デザイン物産展ニッポン」において,その企画のコーディネートをナガオカが務めたことであった。同展は,「デザインにも,ふるさとがある」という発想から,「ふるさとにあるデザインが何を考え,どう活躍しているか」(ナガオカケンメイ「デザインのふるさと」,同展図録)を,47の都道府県ごとにピックアップし,紹介した企画展であった。この企画を主導するなかで,ナガオカは,47都道府県それぞれにある「デザイン」を発見し,紹介するという事業を,D.における重要なものとして位置付けていくようになる。



3.「d47」という取り組み

 こうした流れを受けてD.では,47都道府県を基軸とした二つの事業を立ち上げる。一つは,『d design travel』という観光ガイドブックで,「土地の個性を生かしたデザインを巡る旅」としての「デザイン観光」を紹介しようとするものである。都道府県を単位として順次発行され,2009年の『d design travel HOKKAIDO』を皮切りに,2018年1月現在22号まで刊行されている。

 そしてもう一つが,2012年に開業した渋谷ヒカリエ8階の「クリエイティブフロア 8/」に展開される「d47 MUSEUM」「d47 design travel store」「d47食堂」である。このうち,「d47 MUSEUM」は,1m四方ほどの展示台が47台常設され,企画のテーマにもとづいて,47都道府県の物産や事物を展示するギャラリー施設である。また,『d design travel』が新たに刊行されると,その内容にあわせた当該都道府県の企画展も開催される。『d design travel』関連展をのぞくと,これまでに,「ニッポン47ブルワリー─47都道府県のクラフトビール展─」「47 accessories─47都道府県のアクセサリー展」「みんなのスーパーマーケット─47都道府県のご当地スーパー展」「47 GIFT 2013─お中元─」「47麺 MARKET─47都道府県のローカルな麺集めました─」などといった企画展が開催されている。企画のなかには,必ずしも「都道府県」ではないものも含まれるが(それでも47という数字には拘る形で企画されている),「d47 MUSEUM」は,基本的には,「47都道府県」を展示する場としてある。報告では,この「d47 MUSEUM」の企画において,「47都道府県」がどのように表象されているのかを検討しつつ,地域文化の現在的消費の一端を考察する。

著者関連情報
© 2018 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top