抄録
Ⅰ はじめに
河川環境は我々の生活に密接にかかわっており、洪水、さらには洪水時に限らない水質の悪化は我々の生活に大きな打撃を与える。そこで河川ごとに継続的な調査を行い、その流域の特徴を把握することは非常に重要である。北海道東部十勝川流域では2016年8月に台風が連続して接近し、浸水・橋の流失など大きな被害が生じた。今回はこれら被害の把握や水質調査結果をもとに十勝川水系の総合的な水環境についてまとめる。
Ⅱ 研究方法
既存資料のレビューを行い、現地調査を行った。調査日は2016年11月、2017年2月、6月、10月で、現地ではAT,WT,pH,RpH,ECの測定を行い、採水したサンプルは後日、実験室で主要溶存成分とTOCの分析を行った。
Ⅲ 結果・考察
1.洪水被害
洪水による被害は家屋・農地の浸水、橋台背面の洗掘などによる橋梁の流失、鉄道・道路被災による交通網途絶などである。橋梁の流失被害に関しては、2017年10月調査時点でも復旧工事が完了していないものも存在している。また被害の特徴として支流・上流域で多く氾濫が発生した事が挙げられる
2.河川のEC
十勝川本流の上流では100μS/cm前後の値が観測されたが、流下するにつれて値が上昇し、最下流部では170μS/cm前後の値がみられる。各支流の上流部は値が100μS/cm未満が多いものの、下流付近では200μS/cm近くまで上昇している。また、隣り合う沢同士で値が異なる地点が存在し、土地利用の違いなどの要因が考えられる。利別川支流の足寄川では高いECが観測されており、温泉水等の流入が考えられる。
3.河川のpH
全体的に7前後の地点が多い。ただし、音更川下流や利別川とその支流の足寄川で値が高い。また、音更川上流の支流であるユウウンベツ川で高い値がみられた。一方、雌阿寒温泉付近の沢では6.6を観測した。雌阿寒温泉のpHは6.1で温泉水が河川に流入していることが考えられる。また、RpHとpHの差がこの地点では大きい。
4.主要溶存成分
十勝川では陽イオンにCa,Naが多く、陰イオンはHCO3が多い。また、流下するにつれてNO3が増加している。各支流の水質組成は様々で、Ca-HCO3型を示すもの、Ca-SO4型を示すものなどが存在する。また、多くの支流でNO3が見られている点も特徴的で、農業などの影響が考えられる。足寄川やその支流では陽イオンのMg、陰イオンのCl比率が高まることなどほかの河川には見られない特徴がある。この組成は雌阿寒温泉のものと近い。音更川上流部の支流ユウウンベツ川ではNa-HCO3型がみられた。
Ⅳ おわりに
台風による洪水被害は人的被害にとどまらず、農業・交通など甚大なものであった。河川水質に関しては平野部の多くでNO3が溶存しており、農地の影響が考えられる。今後は、支流ごとに土地利用や農地利用を整理し、水質の考察を進めていきたい。
