抄録
1.方法と目的
技術革新によってさまざまな分野でUAVを利用した取り組みが進められている。例えば地理学では、田中ほか(2018)が土石流災害の特徴の解明にUAVや既存の空中写真を使用する分析方法を用いている。このような先行研究を踏まえ、本研究ではUAVを利用した土地利用調査を実施し、その有用性を明らかにすることを目的とする。
農業的土地利用、都市的土地利用など、地理学では土地利用調査が重視されている。土地利用図を作成する際には、調査範囲を徒歩で移動し観察した結果を地図や調査票に記録し、それを地図化するのが一般的である。しかし、耕作放棄地の増加に伴って、背丈を上回るような草木によって地図上での位置を把握できず移動が困難な場合や、危険な野生生物(熊、猪、野犬、スズメバチ、マダニなど)から被害をうける可能性もあり、地域の変化に対応した調査方法を検討する必要性が増している。
本研究では自律飛行のできるUAVを使用し調査範囲の垂直空中写真を撮影する。得られた画像をAgisoft社のPhotoScan Professionalを用いて処理し、DSMやオルソ空中写真を出力し、それを元に土地利用図を作成する。
2.UAVによる土地利用調査
日本では航空法などでUAVを飛行させる際には制限が設けられている。地上等から150m以上の飛行、DID上空の飛行、目視外での飛行などの場合には空港事務所長や地方航空局の許可・承認が必要になる。特に都市的土地利用の調査は、DID上空となる場合が多く、技術的には可能であるが事故のリスクなどを考えると躊躇せざるをえず、現状ではUAVを用いた調査は難しい。
しかし、農地の上空を飛行させる場合、周囲を監視し第三者の立ち入りを制限すれば、UAVを飛行させることのリスクは比較的低くなる。そこで、住宅のない荒川堤外地上空でUAVを飛行させ、その土地利用を調査した。
3.調査の概要
荒川は堤外地の利用の盛んな河川である。今回は2005年以降継続的に土地利用を調査している川島町出丸中郷地区の堤外地でUAVによる撮影を実施した。面積にして約150ha、徒歩による調査では3~4日必要である。この地域では年々耕作放棄地が増加しており、一部では徒歩による調査が難しくなっている。調査範囲には猪、狸、野犬などが姿を現すため、注意喚起の看板等が設置されている。また、スズメバチの巣がみられるため、調査のために立ち入ることができない場所もある。しかし、UAVを用いると対象範囲の調査を約半日で終えることができた。
撮影は2017年2月、8月に実施した。UAVを飛行させた高度は地表面から約100m、撮影した画像の枚数は数千枚、それらを数日かけて処理した。土地利用の判別については、畑、田、荒地、林地などは容易にできた。しかし、畑で何が作られているのかを判別することは難しいため、補足調査が必要である。UAVを飛行させる高さを低くすれば解像度は高くなるがバッテリー容量の問題もあり、今後の性能の向上に期待したい。
4.まとめ
今回の調査で得られた画像の精度は約4cm/pxとなっており、この程度の精度でも大まかな土地利用を判別することは可能であった。補足調査として作物を確認する必要はあるが、UAVによって地域の景観を詳細に記録することができるため、データの蓄積が容易になっている。
参考文献
田中 圭・中田 高 2018. 2014年広島土石流災害による建物被害の立地分析.地理学評論91-1,62-78.