日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 625
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発表要旨
避難行動の課題を踏まえた津波防災学習の提案
*森 康平山縣 耕太郎塚本 章宏井若 和久
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抄録
1.はじめに

 2011年に発生した東日本大震災では,多くの園児・児童・生徒が津波による被害を受けた。子どもたちの多くは,放課後帰宅した後に津波の被害を受け命を落としている(中野ほか,2012)。こうした状況を受け,藤岡(2011)は, 小学校の中学年以上の防災教育では,災害時に自ら危険を理解し,自ら安全な行動をとる能力の育成が求められていると指摘している。また,災害時には,非日常的な事態が発生する。こうした事態に対応できる能力も必要とされる。前田・小檜山(2011)は,南海地震や東南海地震が発生した場合,個人が所有する家屋やブロック塀などが倒壊して,道路閉塞が発生し,避難が妨げられることにより,大きな被害が発生すると指摘している。そこで,本研究は,徳島県海陽町宍喰地区にある小学校第4学年から第6学年の児童を対象に,建物倒壊による道路閉塞及び児童の津波避難行動の課題を検討した。その課題を踏まえ,児童が自ら避難ルートを選択する力を養うために,逃げ地図の作成を取り入れた津波防災学習を開発し,その教育的効果を検討した。

2.研究方法

 本研究は,次の手順に沿って進める。①GISを使用して宍喰地区の中心部に立地する建物の倒壊危険度を評価し,さらに危険度評価した建物データに5mのバッファをかけて,道路閉塞の範囲を明らかにする,②授業実践前に,児童の地震災害に関する知識と津波防災学習に対する教員の意識を把握するため質問紙調査を実施する。③数人の児童にGPSロガーを持たせ,自宅から任意の津波避難場所まで避難してもらい,データから,児童の避難行動の課題を把握する。さらに,GPSロガーを持って避難訓練に参加した児童を対象に質問紙調査を実施し,避難時に危険な場所等がなかったかを確認する,④これらの結果を基にして津波防災学習を作成し実施する,⑤授業後に児童及び教員に対して授業に関する質問紙調査を実施して教育的効果を検討する。
 
3.授業実践の効果と課題

 授業を実施する前の質問紙調査では,第4学年から第6学年の児童は,地震が発生した場合の被害として,建物倒壊や津波の発生といった,地震による直接的な被害については,認識していることがわかった。しかし,建物倒壊が発生した場合,それが避難行動にどのような影響を与えるかについて考えられている児童は僅かであった。また,津波避難訓練時の避難行動データを見ると,児童は最短時間で避難できる経路を使用していた。これに対して,実践授業に実施した質問紙調査では,ほとんどの児童が,今後,津波避難訓練がある際には,建物が倒壊して道路閉塞が発生することを考えて避難すると回答している。したがって,本実践を通じて児童は,道路閉塞を考慮して避難行動をとることができるようになったと評価できる。
 一方,授業実践時に,宍喰地区の津波ハザードマップを使用し,学校周辺における津波の浸水エリアを説明した。しかし,児童は,津波の高さなどを想像することができていないように感じた。小学校の段階では,児童の成長とともに各学年で地域の空間的認識に違いがあると考えられた。
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© 2018 公益社団法人 日本地理学会
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