日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 209
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発表要旨
3Dマングローブ模型を用いた津波減勢効果の検討
*柳澤 英明宮城 豊彦会田 俊介
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抄録

1. はじめに

潮間帯に成立するマングローブには、海洋からの津波インパクトを最前面で受け止め、陸域に広がる人間環境を保全するグリーンインフラとしての機能が期待される。特に東南アジアなどの沿岸域においては、経済的なコストや自然・生活環境の観点から、防潮堤のような人工構造物を多数建設することは難しく、グリーンインフラを組み合わせた総合的な防災対策が求められている。しかしながら、複雑な支柱根形状を有するマングローブの津波減勢効果を定量的に評価することは難しく、十分な研究がなされていないのが現状である。そこで本研究では、マングローブの支柱根形状を3Dスキャナによってモデル化するとともに、3Dプリンターで出力することで高精度なマングローブ模型を作成し、水槽模型実験を行うことで津波減衰特性を明らかとする。さらに、数値シミュレーションを行うことで、マングローブによる津波減勢効果を定量的に評価する。

2. マングローブ形状の3Dモデル化

ベトナム・カンザーで植林されたマングローブ(Rhizophora apiculata)を対象に3Dスキャンを行った。本研究では、植林後19年と39年経過したマングローブ林を対象とし、支柱根形状の計測を行った。その結果、株元径におけるメジャーと3Dモデルの比較において、cm以下の誤差で形状評価することができた。また3Dモデルによると、今回測定したマングローブの支柱根の総体積は、19年生と39年生でそれぞれ、0.0078㎥と0.19㎥であることが分かった。また5cm刻みで体積を測定して鉛直方向の体積分布の変化を評価したところ、根高の約4〜5分の1の高さまでの体積が大きいことが分かった。さらに体積の鉛直方向の累積分布について回帰分析を行った結果、ほぼ放物線で描かれることが分かった。

3. 水理模型実験

マングローブの3Dモデルから3Dプリンターを用いて、マングローブ模型を作成し、水理模型実験を行った。油圧式段波水槽(長さ17m、幅30cm)にマングローブ模型(19年生)を設置し、津波に模した段波を作用させた。マングローブの林帯幅の条件として1mと1.5mの2ケースを設定し、模型の前後に波高計を設置して水位の変化を計測した。実験結果から、マングローブ前後での減衰率および、前面での反射率を算定することができた。

4. 数値シミュレーション

水理模型実験の結果を再現するため、浅水流方程式を用いて数値シミュレーションを行った。水槽の底面摩擦則にはマニング式、マングローブの抵抗則にはモリソン式を用いた。またマングローブの抵抗を再現する上で重要となる投影面積と没水体積の評価には3Dモデルから作成した回帰式を用い、水位の変化に応じて逐次評価した。数値シミュレーションと実測波形を比較した結果、マングローブ模型による津波減勢効果を精度よく再現することができた。数値シミュレーションを用いることで、マングローブの津波減勢効果を定量評価することが可能となった。

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