Ⅰ はじめに
草津白根山の周辺諸河川では、温泉排水・鉱山排水の影響を受け、酸性・高EC値の水質を示す。また、2019年1月噴火によって山体周辺に堆積した火山灰からは、今現在も、一定の濃度の水溶性成分が溶出していることが認められた(猪狩ほか 2019)。約20回におよぶ水環境調査と成分分析の結果から、草津白根山周辺水環境の水質特性・形成要因を明らかにするとともに、地質学を合わせた他火山との比較の中で、当火山の水文地理学的特徴を検討した。
Ⅱ 研究方法
2017年5月から2019年5月にかけて21回の現地調査を行った。調査地点は山体の東側と南側を流れる河川を中心に、約45地点ほどである。現地では気温、水温、pH、RpH、EC(電気伝導度)、流量の測定を実施した。2018年2月6日に草津町の協力の下、今回噴火が発生した本白根山東麓の火山灰の分布域・降灰量の調査、サンプリングを行った。河川水以外にも、降水や積雪、温泉水の現地調査とサンプリングを行っている。
Ⅲ 結果と考察
周辺河川水(白砂川・万座川流域)
吾妻川の左岸側に位置する草津白根山を流れる諸河川には、草津温泉・万座温泉などの温泉排水や、白根硫黄鉱山跡からの鉱山排水が流入し、水質の形成に大きな影響を与えている。また発電利用の為の導水や貯水も広く行われており、こうした人為的影響による急激な水質の変化も著しく見られる。主要溶存成分としては、陰イオンではSO4、Clの卓越、陽イオンではNa、Caの卓越が際立ち、温泉排水・鉱山排水の元の水質が大きく影響しているほか、吾妻川合流直前の下流域ではNaCl型の水質を示す河川もあり、処理水も水質形成要因に関係していることが示唆される。白砂川最下流地点では、中流域とは全く異なる水質となる時が多く、草津温泉地域(品木ダム)からの導水管を通した影響が、日時による導水の有無によって現れている。
2.浅間山との比較
火山体周辺の水環境では、最終火山活動・地質形成年代と水質との間に一定の相関があることが国内外で報告されており、同じ吾妻川に位置する浅間山でも同様の研究を行った(猪狩ほか 2018)。
同じ吾妻川流域にありながら、草津白根山では地表近くまで熱水系が発達していることから、山体から流出する強酸性水の水質が、周辺水環境にも強く出ている。
Ⅳ おわりに
草津白根山を中心に、浅間山の比較の中で、水文学と地質学を融合した水文地理学的な観点で草津白根山の水質特性をまとめた。今後は採取した試料の分析を進めるとともに、地質データの収集・解析、他火山での先行研究、分析データを整理し、今回の成果に加えて考察を進める。また、水質組成比と最終火山活動との関係性に関する検討も、さらに発展させていく必要がある。
参 考 文 献
猪狩彬寛, 小寺浩二, 浅見和希(2019): 草津白根山周辺地域の水環境に関する研究(4), 2019年度日本地理学会春季学術大会発表要旨集.
Francisco J. Alcalá, Emilio Custodio (2008):Using the Cl/Br ratio as a tracer to identify the origin of salinity in aquifers in Spain and Portugal. Journal of Hydrology, 359(1-2), 189-207.