主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2019年度日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2019/09/21 - 2019/09/23
1.中越大震災の特徴
平成23年10月23日に発生した最大震度7の地震により、新幹線、高速道路等の高速交通網が寸断され、長期間不通となった。
中山間地では、土砂崩れなどの地盤災害が多発したことにより、地域の道路網や河川の閉塞なども発生したため、そこでの生活が困難となった。中でも、旧山古志村では、一時は全村避難も行われ、過疎・高齢化等の課題が顕在化した。
2.復興基金のアウトライン
国の交付税措置を財源的な裏付けとした、県からの貸付金による金利を原資とする「指名債権譲渡方式」によって基金造成が行われ、公益財団法人が設立された。
行政とは別に設けられた組織により、迅速な事業構築や機動的な運営が可能となった。また、意思決定に当たる役員に、復興に豊富な知見を有する有識者が加わることにより、様々な新しい発想も活用できた。
3.復興基金が果たした役割
(1)中山間地での災害復興メニュー
中山間地域の被災地では、小規模な農業や養鯉業を生業とする住民が多かった。住宅だけでなく、農業基盤施設、作業場や農機具などにも被害が及んだことで、生業の基盤も失われた。被災した住宅の再建は、自力再建への支援として進められたが、住まいとともに生業の生産施設を同時に失った被災者の負担には限界があり、住まいと生業の双方を意識して復旧を支援する必要があり、対応したメニューが取り組まれた。
また、コミュニティ再生のため、多岐にわたる住民のニーズをきめ細かく把握する必要があった。このため、自治体だけでなく、NPОなども活動を展開したが、やがて、復興基金の事業として設置された地域復興支援員が、行政と地域住民の間の橋渡し役を果たした。把握されたニーズの一つには地域の拠りどころとなる集会施設等の再建が求められ、基金による支援が行われた。こうした取組みの積み重ねにより、コミュニティの維持が図られた。
(2)中越メモリアル回廊
震災の復旧及び復興とともに、経験・教訓の発信も基金の大切な役割であり、長岡市と小千谷市では、「中越メモリアル回廊」の整備が行われた。
被害のあらましや被災当時の避難所の様子がわかるようになっており、県内外から防災に関心のある多くの方が来場している。また、県内の小中学校からは防災教育の場として活用されている。
4.基金の解散とこれからについて
長引く低金利のため、公益財団法人での資金運用は困難となっている。東日本大震災や熊本地震などでは公益財団法人は設立されず、自治体の一般会計の中に「取り崩し型」の基金が作られている。
中越大震災復興基金が復旧および復興のプロセスで機動的に事業を実施し、復興に寄与したことに対しては高い評価をいただいてきた。そして、その役割を果たし終えたことから令和2年秋を目途に解散することにしている。
残された資金は、「中越メモリアル回廊」を活用した、県内の小中学校で取り組まれる防災教育プログラムを支援する事業のため、地元市に引き継がれることになっている。この取組が生かされ、震災の経験と教訓が将来の世代へ伝えられていくことに期待している。