日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 326
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発表要旨
鹿児島県さつま町における竹林の管理・利用の維持
*深瀬 浩三末留 翔貴
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抄録

Ⅰ はじめに

 日本では,古くからタケノコ生産や竹材の生産を目的に,居住地近くにモウソウチクを中心に植えられ,西日本を中心に大規模な竹林が形成された.しかし,1970年代から中国産の安価なタケノコや竹製品の輸入増加,プラスチック等の代替製品の登場による竹材の需要低迷によって,タケノコや竹材生産が減少傾向である.

 また,その頃から日本各地の農村部では高齢化・過疎化が進展し,1990年代以降,管理が放棄された山林や農地の荒廃が問題視されるようになった.竹林の管理も以上の要因から困難となり,放置竹林の増加,その周りの管理が放棄された二次林や農地等に竹が侵入し竹害を引き起こしている.

 このような状況下で,竹林面積を広く抱えている地域ではどのように竹林を管理・利用しているのだろうか.そこで本研究では,鹿児島県さつま町(旧宮之城町)を研究対象地域として,竹林整備事業やタケノコ生産者組織の活動,タケノコ(・竹材)生産者の経営形態を分析し,竹林の管理・利用がどのように維持されているのかを明らかにすることを目的とする.

 本研究は次の方法で行った.第一に,竹林の管理・利用の概要については,さつま町への聞き取り調査と資料を入手した.第二に,タケノコ・竹材生産については,さつま町筍生産振興会会員を対象に,経営内容と今後の意向に関するアンケート調査や聞き取り調査を実施した.第三に関連する統計資料等を活用した.

Ⅱ さつま町におけるタケノコ生産と竹林整備事業

 鹿児島県では,1965年頃まで竹材を中心にタケノコ生産も行われていたが,1968年頃から行政の事業によって,タケノコ生産専用の竹林造成が各地で実施された.しかし,前述した輸入タケノコの増加によって,鹿児島県では1980年代半ばをピークにその生産量が減少傾向である.

 さつま町(旧宮之城町)では,古くから竹林が広く分布しており,タケノコや竹材生産,稲作,ミカン生産,畜産業等が行われていた.1960年代末のミカンの価格暴落をきっかけにミカン生産を辞める農家が増えたため,廃止したミカン園等に竹が侵入してきた.このことや前述した県の事業等をきっかけに,1971年頃に,同町泊野地区で筍生産同好会が発足し,本格的なタケノコ生産が取り組むようになった.

 しかし,1990年代からさらなる高齢化や過疎化によって,竹林の管理が深刻化してきたため,2004年度から県やさつま町,さつま農協の事業によって,さつま農協が中心となって竹林オーナー制度を実施している.

 2013年度からは県の「かごしま竹の郷創生事業」を活用し,さつま町が竹林整備事業を実施している.具体的には,竹林の管理路の補修と新規開設,放置竹林のタケノコ生産竹林への改良等の補助を行っている.

 一方,さつま町筍生産振興会では,生産技術の研修会,品評会,視察等開催し,タケノコ生産の維持・向上を図っている.また,泊野地区では約20年前から毎年4月頃にタケノコ掘りイベントを開催し,都市住民との交流を図っている.

 タケノコの出荷については,農協の系統出荷が中心であり,高値がつく10~12月頃に東京市場を中心に「早堀りタケノコ」として出荷している.4~5月頃は全国的にタケノコが出回るので水煮加工用として出荷している.

Ⅲ タケノコ生産者の経営形態と今後の意向

 生産者全体(114名)のうち,モウソウチクのみ所有者は74%を占めている.生産者の平均年齢は72歳,1戸あたりの竹林所有面積0.79ha,タケノコ生産量は962.8㎏である.

 労働力については,高齢夫婦のみが全体の52%,次いで高齢単身者のみが29%を占めている.竹林管理とタケノコの生産を自家労働力のみで行っている.とくに,伐採作業は重労働のため,一部の生産者は雇用労働力を1~3名導入している.生産者全体の42%が,木材業者への伐採した竹材を販売している.

 今後の竹林管理の意向については,「改良整備したい」(23%),「面積を拡大したい」(4%)と答える経営意欲が高い比較的若い生産者がいたが,「将来は譲りたい」(25%),「今,誰かに貸したい」(16%),「もう辞めたい」(4%)と経営縮小を回答する生産者の方が多かった.

Ⅳ おわりに

 さつま町では,2000年代から生産者組織の活動や竹林整備事業,タケノコ掘りイベント,竹林オーナー制度等を実施することで竹林の管理・利用を維持している.また,市場からブランド評価されている早掘りタケノコの生産は,高齢農家に収益をもたらしている.

 だが,さつま町全体の広大な竹林面積からみれば,活用されている竹林は一部にすぎない.今後は,竹林だけではなく,里山全体を適正に管理・活用するシステムの構築等といった地域ぐるみの新たな対応が求められる.

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