日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P051
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発表要旨
ALOS 30 DSMアナグリフ画像及び空中写真を用いたブータン南部の活断層のマッピング
*熊原 康博中田 高梅原 始
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抄録

1. はじめに  長さ2500kmに及ぶヒマラヤ前縁には,インドプレートとユーラシアプレートのプレート境界に沿って活断層が発達する.これまで,パキスタン,インド北西部,ネパールにおいては,多くの先行研究によって,その分布および変位様式が明らかになっている.しかしながら,東西長さ350kmのブータンとインドとの国境域は,過去にはNakata (1972)の先駆的な研究やYagi et al. (2002)があるものの断片的な情報にとどまっていた.近年,断層地形が明瞭な地域での変動地形調査(Theo Berthet et al. 2014),トレンチ断層調査(Le Roux-Mallouf et al., 2016)が行われ,Tobias Diehl et al (2017)によりブータン周辺のサイスモテクトニクスが議論されるなど,ブータンのアクティブテクトニクスに注目が集まりつつある.しかし,その基本的な情報といえる,ブータンヒマラヤ全体の活断層のトレースは明らかになっておらず,他のヒマラヤ周辺地域と比べて活断層に関する情報が乏しい地域のままである.

 本発表では,空中写真判読及びALOS 30 DSMアナグリフ画像判読をおこない,ブータン南部の活断層の分布について明らかにした結果を報告する.また得られた結果をもとに,地質構造,ネパールの活断層分布との比較をおこない,ブータン南部の活断層の特徴について検討する.

2. 使用したデータ  空中写真は,ブータン政府貿易工業省地質鉱山局及び内務省測量局が保有しているものを利用した.空中写真の縮尺は1:12,500〜1:25,000で,撮影年は1988年,1990年のものである.またインドとの国境付近は空中写真が撮影されていない範囲もある.

 空中写真判読を補完するデータとして,ALOS 30 Digital Surface Model (DSM) を用いた.これはJAXA が2006-2011 年にかけて「だいち」で取得されたデータをもとに作成された水平解像度30m 相当のDEM データセットで,1度×1 度単位を1タイルとして提供されている.このデータをMac 用のフリーソフト(Simple DEM Viewer)を用いてアナグリフ画像に変換した.地形をグレースケールの傾斜角で表現し,低断層崖などの細かな変位地形が認識できるように設定した.これをQGIS上で断層線をマッピングするとともに,あわせて写真判読の結果も反映させた.

3. 断層分布の特徴  1)ブータン全体にわたり東西走向の山地と平野の境界に沿って,ほぼ連続的に逆断層性の活断層が認められる.断層地形は南落ちの断層崖や撓曲崖で特徴付けられ,段丘面を変形させ,もしくは段丘面を切断している.

2)ブータン中央部から東端にかけては,過去のプレート境界であるMBT(Main Boundary Thrust)に沿って,活断層が連続的に認められる.多くの地点で,山地斜面や段丘面を逆向きに変形させる北落ちの断層崖が認められるが,一部では南落ちの撓曲崖や断層崖も認められる.一方,中央部から西端までは,既存の地質図(Long et al., 2011)で示されたMBTの位置と活断層はほとんど一致しない.

3)MBTより北の低ヒマラヤでは,東西走向の北落ちの断層や北東-南西走向の左横ずれ断層,北西-南東走向の右横ずれ断層が多数発達する.場所によっては,南落ちの逆断層性のトレースも見られるなど複雑な特徴をもつ.いずれの断層も長さ20kmより短い断層からなり,場所によっては6条以上にわたりほぼ平行に分布する.

4.ブータン南部の東西で異なる断層発達  ブータンヒマラヤ南部の地質構造は,ブータン中部を境に東西で異なる.ブータン東部は第三紀堆積岩からなるシワリク山地の発達が認められるものの,西部ではシワリク山地は極めて薄いか,一部では欠落する.そのため,ブータン西部ではMBTが平野と山地の境界沿いに位置する.

 断層発達は上記の地質の特徴を反映する.ブータン東部では,シワリク山地北縁と南縁に沿って活断層が連続的に分布し,この特徴はネパールヒマラヤ前縁の断層発達に類似する.一方,ブータン西部では,HFTもしくはMBTにあたる山麓沿いの南落ちの逆断層は連続的に発達し,それより内部の低ヒマラヤでも比較的短い断層トレースが認められる.これはネパールヒマラヤでは認められない特徴である.断層発達がブータンの東西で異なる原因として,ブータンの南にあるシロン丘陵の隆起に伴うヒマラヤ前弧堆積盆の構造の違いが想定される.

附記:科学研究費補助金・基盤研究(B)18H00766(研究代表者:中田 高)及び,国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))18KK0027(研究代表者:熊原康博)の一部を用いた.

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