日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P061
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発表要旨
波食棚の形成をもたらす海食崖の後退に与える風化作用の影響
砂岩塊からなる石垣を用いたアプローチ
*原田 悠紀青木 久
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抄録
岩石海岸に見られる特徴的な地形に海食崖と波食棚がある.波食棚とは,海食崖基部から海側に向かって平坦面をもち,その海側末端が急崖となっている地形である.波食棚は波による侵食と風化作用の影響によって海食崖が後退した結果,その前面に形成されると考えられている.しかしながら,波食棚の形成,すなわち海食崖の後退に対し,風化作用がどのような影響を与えているのかについて,定量的データに基づいて議論された研究はほとんどない.

 千葉県銚子半島海鹿島海岸には,銚子層群の砂岩を整形した岩塊(以下,砂岩塊)を最大7段に積み上げた全長約100 m,高さ約2.5 mの石垣が存在する.現地観察によると,砂岩塊表面には侵食作用によるくぼみが生じており,その深さ,すなわち侵食量は石垣の前面に波食棚がある場所とない場所で大きく異なる.石垣を人工の海食崖と考えると,両地点の侵食量の違いは,初期地形の条件をコントロールした海食崖の後退に関する野外実験の結果とみなせる.

 そこで本研究では,石垣の前面に波食棚がない地点(Site A)からは波食棚生成初期のプロセスを,波食棚のある地点(Site B)からは波食棚発達中のプロセスをそれぞれ探求できると考え,波食棚形成をもたらす海食崖の後退に与える風化作用の影響を明らかにすることを目的とする.具体的には,両地点における砂岩塊表面の侵食量,岩石強度,含水比を計測し,それらの計測結果を比較し,石垣の後退に与える風化作用の影響を考察する.

 本研究で得られた結果は,侵食量は,Site AよりもSite Bの方が大きかった.岩石強度は,Site AよりもSite Bの方が小さかった.含水比については,満潮時に波の這い上がりによって濡れるSite Aの方が,潮位低下に伴って低下する量は大きいが,干潮時における最小含水比はSite Bの方が小さかった.

 また,干潮時の最小含水比に着目し,砂岩塊の侵食量・強度低下との関係を風化作用の観点から整理してみると,干潮時に乾燥しやすいSite Bは,Site Aに比べ,風化しやすい環境であり,風化による岩石強度の低下が起こりやすく,侵食を受けやすい海食崖であると解釈される.したがって,本研究の結果は,海食崖の後退しやすさには,風化作用のしやすさが関係することを示している.このことは,波食棚の生成初期には,風化の影響が小さいため,崖の後退は起こりにくいが,波食棚の幅が広くなるにつれて,風化作用が活発となり,崖の後退速度が増大することを示唆している.
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© 2019 公益社団法人 日本地理学会
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