日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 201
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発表要旨
四万十川中・下流域における河川漁撈の存続要因
漁撈者に注目して
*柳田 健一郎
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抄録
2014年に「ニホンウナギ」がレッドリストで絶滅危惧種ⅠB種に指定され,メディアにおいても大きく取り上げられた.また,内水面における資源の減少や環境の悪化といった現状を踏まえ,同年に「内水面漁業の振興に関する法律」が成立した.この法律は,内水面における水産資源と漁場環境の回復や再生,漁業者の育成,内水面の多面的機能の発揮などの目標を掲げ,内水面漁業の発展を図ろうとするものである.このように内水面漁業めぐる状況は近年変容しており,社会的関心も高まりつつある.
内水面漁業とは一般的に河川や湖沼などの内水面で営まれる漁業や養殖業のことを指す.そのうち河川において営まれる漁業活動や漁撈活動に関する研究は,人文諸科学の中では民俗学分野を中心に古くから行われてきた.戦前に始まった初期の河川漁撈研究は日本各地の河川における,漁撈活動の実態の把握を目指し,漁具や漁法といった漁撈技術の記録に尽力してきた.また近年では,漁撈者の環境観の把握を行う研究が多くなりつつある(伊藤2018).一方で地理学において河川での漁業や漁撈活動を扱った研究の蓄積は十分とは言い難く,沿岸漁業を中心とする海面での研究が主であった.これは河川漁業の生産力の低さや近年の環境悪化に起因すると考えられる.長良川の淡水魚介類の食用と漁撈の空間的差異について論じた野中(1991)は生業や社会的・文化的条件の違いから他流域との比較の必要性を述べており,また阿武隈川の河川漁業の実態と放流事業による資源管理の意義を論じた高野(2004)は,①地域性,②社会性,③環境文化という地理学研究の視点を提示している.このように地域性の把握や,自然と人間の関わりから生じる文化・社会的現象の空間的な把握に特化する地理学からのアプローチも必要不可欠であることがうかがえる.以上を踏まえ,本研究では現在も河川漁撈が行われている地域において担い手,漁撈活動,社会的基盤の側面から河川漁撈が存続する要因を明らかにすることを目的とする.
対象地域は高知県の四万十川中下流域に位置する四万十市である. 対象地域選定の際には先行研究を元に完全にレジャー化しておらず,伝統的な漁撈活動が存続している地域として,遊漁者以外にも多様な漁撈者が見られることを条件とした.四万十市役所,四万十町役場,四万十川漁業協同組合連合会,四万十川の5つの漁業協同組合,漁業者24名への聞き取り調査の結果に基づき考察を行った.現地調査は2017年9月から12月にかけて14日間行った.
担い手は生業の形態によって専業的漁撈者6人,兼業的漁撈者8人,退職後漁撈者10人の3つのグループに大別された.専業的漁業者は6人中4人が他県からの移住者であった. 漁撈活動は多くの漁撈者がアユを中心に漁獲する一方で,専業漁業者の中には経済的価値の高いウナギやテナガエビ,スジアオノリを中心に漁獲を行なっている者も存在した.選択される漁法は漁獲対象によって異なってくるが,多くの人がアユを漁獲するための投網を行なっていた.ウナギの漁法については多少ながら漁撈者ごとに違いが見られた.漁撈を可能にするための社会的基盤の一つとして流通網の確立が考えられる.確認された流通網は自家消費,公設市場,漁協市場,ツテを通じた自家販売であった.ブランドを生かし関東圏への自家販売を行なっている専業的漁業者も存在した.漁撈の存続を可能にする要因としては漁撈技術の継承,漁獲物に経済的価値を付与する流通網の保持などが挙げられた.
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© 2019 公益社団法人 日本地理学会
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