日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P087
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発表要旨
北海道中川町における化石を活用した地域づくりの可能性
*中岡 裕章町田 知未中山 京子櫻井 琢也佐野 充
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抄録
1.はじめに

 日本では,多くの自治体が基幹産業の衰退や人口減少,高齢化といった問題に直面している。特に,大都市から遠く離れた地域では,地域の存続を目的とした地域振興策が求められており,官民協働による地域資源を活用した地域づくりに関心が寄せられている。中でも,地域ごとに特徴の異なる自然・人文環境や地域産業,地場産品などの地域資源を活かし,地域の魅力として地域外に発信することで地域内外の交流促進を目指す取り組みが増加している。ただし,地域特性は地域ごとに異なり,それを考慮せずに他地域の取り組みを真似るだけの地域づくりは成功しないことも指摘されており,地域の特性に適合した戦略や取り組みのあり方が求められる。一方,地域内外の交流促進を目指すのであれば,地域外の人々が,地域のどのような資源に魅力を感じているのかを把握し,適切なマーケティングを行うことも肝要となる。
 以上より本報告では,北海道中川町で実践される地域づくりについて,特に,化石を活用した取り組みに着目し,その経緯や内容を把握し,地域外の人々の地域への関心も踏まえて,地域資源を活用した地域づくりの可能性を検証する。

2.調査方法

 調査は,化石を活用した取り組みの経緯と取組の内容を把握するために,中川町エコミュージアムセンターの職員,中川長役場,中川町商工会に対し,2017~2018年にかけて聞き取り調査を実施した。また同期間において,地域外の人々の中川町への関心を把握するために,同センターへの来館者と,同町で開催される「なかがわ秋味まつり」および「中川神社祭」の参加者に対し,アンケートを実施した。

3.結果

 中川町では基幹産業の衰退に伴う人口減少や高齢化が進行してきた。一方,同町には,白亜紀の地層が広く分布し,アンモナイトをはじめとする化石が多く産出されるため,「アンモナイトの町」として広く認知されている。このため,町内で産出される化石をはじめ,自然や文化などを地域の魅力として捉え,町全体を博物館とみなした「エコミュージアム構想」が提唱された。この構想を推進するための中核施設が中川町エコミュージアムセンターである。
 中川町エコミュージアムセンターは,1999年に廃校となった佐久中学校の校舎を改修したものであり,自然誌博物館と宿泊研修棟からなる複合施設である。館内には,1991年に発見された化石をもとに復元されたクビナガリュウの骨格標本をはじめ,白亜紀の貴重な化石が約300点展示されているほか,「中川の森の自然誌」や「天塩川と人びとの歩み」をテーマにした展示もあり,中川の自然誌が体験できる。来館者は年間3,000人程度で推移しており,宿泊を伴う者も少なくない。
 アンケート結果によると,来館者には北海道内の旭川市や札幌市のほか,東京都などの都市住民が多かった。また,来館者の多くが中川町への来訪が初めてであった。したがって,中川町エコミュージアムセンターへの来館が,中川町に来訪する一つの契機となっている可能性がある。一方,中川町エコミュージアムセンターに来館する者の多くは,5日間以上の長期旅行者であり,中川町で宿泊する者の割合は低かった。すなわち,来館者にとって中川町は長期旅行の通過点のひとつになっていることも考えられる。
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