日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 314
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発表要旨
高精細地形情報によるダンボール立体モデルを用いた自然地理的現象の理解の促進
*早川 裕弌小倉 拓郎小口 高山内 啓之小花和 宏之
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抄録
1.はじめに

 幼少期における自然現象の理解において,理論的・実証的な考察を促すことは重要であるが,教科書にある知識の教え込みが必ずしもすべて受け入れられるとは限らず,初歩的な理解から深い理解まで児童を誘導するための工夫が必要である。一方,野外における実習といった体験は,児童の感性や記憶に強く影響を与えるため,環境教育の手法として重要視されている。しかし,日常の教育課程の範疇で,野外実習といったかたちで機会を設けることは容易でないことも多い。一方,UAV(無人航空機)やSfM多視点ステレオ写真測量,レーザ測量など,3次元地形情報を取得するさまざまな方法が広く普及してきているが,これらの機器を児童が直接操作しデータ取得を行うといったことにはまだ困難をともなう。

 そこで本研究では,自然地理学的な理解を室内活動において促す手段として,野外で取得された3次元地形情報の活用方法を提案し,児童の感性に訴える教材としての効果を検証する。

2.方法

 自然地形の高精細3次元地形情報(点群データやメッシュモデル)は,デジタルデータとしてコンピュータ上で表示することができるが,アナログな立体モデルとして出力することも,3Dプリンタの普及により容易となってきた。さらに,いったん3次元情報を等高線のように等間隔に分割し,それらを2次元の紙面に印刷したのちに,ダンボールなどで厚みをもたせて重ね合わせることで,3次元の立体モデルを手製することが可能である。

 本研究では,海食崖の侵食が進行している陸繋島について,研究者により取得された3次元点群データから,ダンボール立体モデルを作製できる教材を開発した。これを用いて,夏休み中の特別イベント(「ひらめきときめきサイエンス」の一環)として,島の立体モデルを工作する1日ワークショプを実施した。対象は小学5・6年生約20名である。立体モデルは2回の異なる時期に取得されたデータを用いて2つ作製し,侵食による島の形状の変化をみられるようにした。また,工作実習に先立って,データ取得の様子や,同様の調査に基づく自然地理学的な自然現象理解へのアプローチについて解説する講義を行った。ワークショップの終了後には受講者とその保護者を対象としたアンケートを実施した。

3.結果と考察

 アンケート結果から以下のような傾向が読み取れた。受講者は,始めの講義では「なんとなく難しい」と感じていた。しかし,立体モデルを自らの手で作製し,さらに完成した2時期の異なるモデルを見て,触って比較することで,より強い興味とともに自然現象の理解を深めることができた。また,本ワークショプを通じて,視覚だけでなく触覚も刺激する立体モデルの利点が示されたといえる。
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© 2019 公益社団法人 日本地理学会
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