日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P094
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発表要旨
「地理総合」における「国際理解と国際協力」分野の一試み
*伊藤 恵
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抄録
Ⅰ はじめに
 情報通信技術や交通手段の発達、市場の開放等により、人、物材、情報等の国際的移動が活性化する今日において、様々な分野で「国境」の意義が希薄化するとともに、各国が相互に依存し、他国や国際社会の動向を無視できなくなる現象(グローバル化)が生じている。異文化の接触が大規模に広がることにより、摩擦が発生する可能性を孕むことから、教育分野においては、異文化を理解、尊重し、受け入れる寛容さや、共有可能な倫理観や価値観を見出す能力等の育成が重要視されている。
 そのような社会的背景により、次期高等学校学習指導要領の「地理総合」においては、「広い視野に立ち、グローバル化する国際社会に生きる平和で民主的な国家及び社会の有意な形成者に必要な公民としての資質・能力を身に付けることができる」ことが目標とされている。

Ⅱ 仮説
 筆者は2014年8月にJICA教師海外研修でルワンダ共和国(以下「ルワンダ」)に団長として派遣された。ルワンダでは、1994年に民族対立を原因とした大規模なジェノサイド(大量虐殺)が発生し、約100日間に約80万人の犠牲者が出たと報道されている。本実践は、ジェノサイドの原因や歴史的背景を題材とすることで、次期学習指導要領で目標とする資質・能力を育成することを目的とし、次の仮説を立てた上で行われたものである。

仮説①:ルワンダにおけるジェノサイドについての学習を通して、「他人事」から「自分事」への転換ならびに、「国際理解」と「国際協力」の精神を育成することが期待できる。
仮説②:ジェノサイドの状況や現在のルワンダの様子についてリアリティをもって再現すれば、生徒が主体的かつ自発的に考え行動し、課題を追求し解決する活動が期待できる。

Ⅲ 実践の内容及び考察
 実践の主な内容については、以下のとおりである。
(1) 動機づけ
(2) ルワンダの基礎的知識取得及びワークショップの実施
(3) ジェノサイドの発生と歴史的背景の学習
(4) ルワンダの現状とアクションプラン
 上記(1)及び(2)の導入においては、ルワンダ人との交流を通して、ルワンダや他の国々に対する興味及び関心を促進させることで、異文化間における普遍的価値観を見出す姿勢を形成することをねらいとした。これにより、(3)及び(4)における教育効果をより高めることが可能となった。(3)においては、ルワンダにおけるジェノサイドについて認知し、歴史的背景等について学習させることで、原因及び改善策を探るとともに、平和の重要性を強く認識させることをねらいとした。映画「ホテル・ルワンダ」やロールプレイングを利用した実践により、自発的に理解を深めようとする生徒が見受けられ、様々な立場を疑似体験することで「他人事」から「自分事」への転換が図られた。(4)においては、ジェノサイドからの復興を遂げたルワンダの現状を復興までの過程について理解を深めることができた。また、「将来、国際協力関係の職業に就きたい」という生徒も現れ、「国際理解」や「国際協力」に関する価値観形成を図ることができた。

Ⅳ まとめ
 以上から、仮説①及び仮説②について一定の効果を得ることができたといえる。一方で、本実践は、筆者が海外で得た知識や経験を直接生徒に還元する方式であったが、現地を訪れなくても、情報技術等の進展により、リアリティを追求できる方法があるかもしれない。今後の「地理総合」の在り方を考え、より一般化する方法についても探っていきたい。
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© 2019 公益社団法人 日本地理学会
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