日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S209
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発表要旨
公開シンポジウム 「地理総合」で何が変わるか
*矢野 桂司井田 仁康秋本 弘章浅川 俊夫久保 純子
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抄録

1.開催趣旨
 これまで日本学術会議は、地理教育に関して、対外報告「現代的課題を切り拓く地理教育」(2007年)、提言「新しい高校地理・歴史教育の創造-グローバル化に対応した時空間認識の育成-」(2011年)、提言「地理教育におけるオープンデータの利活用と地図力/GIS技能の育成-地域の課題を分析し地域づくりに参画する人材育成-」(2014年)、提言「持続可能な社会づくりに向けた地理教育の充実」(2017)などを公表してきた。
 そして、多くの地理学・地理教育関係者の努力により2022年度から次期学習指導要領の高校地理歴史科では、「歴史総合」と「地理総合」が必履修科目になった。それを成功させるためには、高校のみならず、教員養成を担う大学教育や、学術機関及び関係省庁が取り組むべき様々な課題がある。
 本公開シンポジウムでは、「地理総合」が導入されることによって、日本の地理教育はどのように変わるのかを議論する。そして、現場となる初等・中等教育だけでなく、教員養成を担う大学教育や関係省庁が取り組むべき様々な課題を整理し、新しい地理教育を今どのように推進すべきかを提案したい。

2.第一部09:00-10:00(地理教育専門委員会)
 テーマ:「地理総合」とは何か?
(主担当:地理教育専門委員会)【井田仁康・秋本弘章・浅川俊夫】
 第一部では、「地理総合」が設置された背景を、現行の「地理A」とのかかわりから説明する。「地理総合」は、中学校社会科地理的分野の学習に基づいて、主題学習的に授業が展開される。現行の「地理A」のグローバルな観点とローカルな観点からという枠組みを踏襲するが、アクティブ・ラーニングを取入れ、生徒が主体的に活動できる学習内容となる。知識の習得より、中学校までの知識を駆使して、地理的な見方・考え方を働かせて、課題の解決を図ろうとする。そのためには、中学校などと連携が重要になる。学習内容としては、地理的な事象を分析するためのツールである地図やGISの活用方法を学習し、そのツールを使いながら、既存の知識を活用し地理的な見方・考え方を働かせ、国際理解や国際協力についての理解を深め、活動へとつなげていく。さらには、学習の柱として「防災」がとりあげられ、地理が「防災」を考えるうえで中核となる科目であることが示された。「地理総合」では、地理学で研究が積み重ねられた「防災」が教育に反映されるべき重要な学習内容となり、今回のシンポジウムが地理教育専門委員会と災害対応委員会が協働する理由もここにある。なお、第一部では「地理総合」における地理の基盤のツールとして位置付く地図力/GISに関して、「地理総合」でどのように学習されるべきかを考える。

3.第二部10:05-12:00(災害対応委員会)
テーマ:「地理総合」と防災:何をどう教えるか?
(主担当:災害対応委員会)【久保純子】
 第二部では、次期学習指導要領「地理総合」における「自然環境と防災」の項目を中心に取り上げる。日本地理学会災害対応委員会では、これまで地理学の立場から防災に貢献するため活動してきた。2022年より、「地理総合」ですべての高校生が「自然環境と防災」を学ぶこととなる。これを受け、「自然環境と防災」で「何を」「どう」教えるべきかについて、自然環境や災害の研究者が何を提示し、高校教員がどのような視点で生徒に伝えるか、議論をすすめたい。

4.第三部13:00-15:00
テーマ:「緊急提言―『地理総合』で何が変わるか」
(主担当:地理教育分科会)【矢野桂司・井田仁康】
 第三部では、第一部・第二部の議論を踏まえつつ、2022年度から必履修科目として新設される「地理総合」によって、地理教育はどのように変わるのか、変わるべきなのか、そして、それに向けて今、地理教育に関わる中学校、高校、大学、学協会などが何をすべきなのかを、地理教育分科会で議論されてきた内容を中心に発表いただく。そして、2022年度から、全国の高校において「地理総合」を着実にスタートさせるための緊急課題を整理したい。

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