日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 607
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発表要旨
ブナ林は本当に水源涵養機能が高いのか?
岩手県安比高原における実証研究
*大貫 靖浩安田 幸生
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抄録

日本のブナ林は主に湿潤で寒冷な山地に分布し、古くから水源涵養機能が高い森林の代表とされてきたが、それをどのくらい有するのかを定量的に算出した研究はほとんどない。そこで演者らは、ブナの純林と呼んでも差し支えない岩手県北部の安比高原ブナ二次林に調査地を設定し、「保水能」の指標と考えられる土壌含水率と、「貯水能」を規定する主要因子である表層土層厚(土壌厚)を多点で測定して、両機能の定量化を試み、微地形との対応関係についても検討した。
 土壌含水率(地表面から各深度までの平均値)は、深度4cmと深度12cmおよび20cmで全く異なる傾向を示した。深度4cmでは、全48地点の平均は7.6%で、10%未満の値を示す地点が90%を占め、土壌には空隙が多く非常に乾燥していた(目視による観察による)。一方深度12cmと20cmでは、全48地点の平均は各35.7%、52.1%で、30%以上の値を示す地点がそれぞれ全体の81%、100%に達し、降雨後1週間経っても深度12cm以深は土壌が非常に湿った状態であることが確認できた。表層土層厚は、2.0haの調査範囲全体にわたって薄く(平均:0.93m)、1m未満の地点が80%、1~1.5mの地点が14%を占めた。特に船底状を呈する小凹地周辺では、0.5m未満の地点も認められ、石礫が多く存在していた。一方、調査範囲南西の谷頭凹地付近では、表層土層厚3m以上の地点が計10点認められ、最大で5m以上の値を示した。これらの表層土層が非常に厚い地点では、基岩付近まで土層内にほとんど石礫が存在しないことから、風成火山灰か西森山起源の細粒の火山泥流堆積物が厚く堆積しているものと推察される。
 以上のように、土壌の保水能の観点からみると、安比高原のブナ二次林は雨水を浸透させやすく、無降雨期が続いても土壌中に水を保持する能力が非常に高いと考えられる。しかしながら、いわゆる「緑のダム」(貯水能)としては、表層土層厚が平均1m未満と薄いことから、ダムの容量(保水容量)は大きくない可能性が高い。

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