抄録
背景と課題
1990年代後半から始まった、加工・小売業による「スーパーマーケット改革」と呼ばれる青果物流通の大規模な改変は、多くの先進国で①農産物の私的な規格化を促し、②卸売市場を経由したスポット取引から契約取引への移行、③店舗単位での集荷から、集配センターを利用した本部一括仕入れ割合の増加による、集荷地の広域化を促進させてきた(Reardon & Barrett 2000)。これらの変化は、主にアメリカやヨーロッパを中心とする先進国で顕著にみられる一方、中国では、スーパーマーケット等の参入が活発化しているにもかかわらず、未だ卸売市場を介したスポット取引を中心とする小規模な流通経路が主流であることが報告されている(Honglin et al. 2009).。
ところでベトナムでは、近年政策的に外資の誘致を行っていることもあり、工業団地が急速に発展している。当該地域では政府による土地収用が行われ、多くの農民が土地を失う一方で、工業団地で賃金労働者化している。このような都市近郊農村における賃金労働者の増加は、工業団地に隣接する地域におけるケータリング産業の成長を促している。ベトナムでは残留農薬や産地偽装によって食の安全性に対する社会的懸念が高まっているが、工業団地に企業給食を提供するケータリングは、出食数が多いことから、そうした影響も大きく、食材の調達を管理することが求められると考えられる。
ベトナムの青果物流通に関する研究は、スーパーマーケットの仕入れ等に関する研究(Cadilhon et al. 2006)、消費者の農産物購入選択に関する研究(Wertheim-Heck et al. 2014)などがあるが、外食やケータリングの原料調達に関する研究は散見する限り見当たらず、ベトナムで展開するケータリング産業がどんな特徴を有しており、それが先進国で見られるような青果物流通を近代化する方向にあるのかは明らかにされていない。よって本研究では、北部ベトナムを対象に、ベトナムで展開しているケータリング企業の特徴とその原料調達行動を明らかにする。
方法と調査地の概要
まず、ハノイ市に隣接するハイズオン省で、商工省に登記されている外食・ケータリングを行っている企業を対象に、資本規模や従業員数等に関して概要整理を行う。次に、ハノイ市及びハイズオン省で、工業団地内の企業にケータリングを提供している4社に対して行った聞き取り調査をもとに、食事の提供形態や、原料調達方法等に関して整理を行う。
ベトナムでは、工業団地は主に南部ホーチミン市周辺と、北部ハノイ市周辺で展開されている。今回対象としたハノイ市は北部で最も工業団地が多く立地し、ハイズオン相は北部でハノイ市、バクニン省に続いて多い地域となっている。
結果
本研究により、①ベトナムのケータリング企業は資本、出食数の規模は小さく、一部の企業を除き、家族経営が主体であること、②食事の提供形態は、人材等を派遣して工業団地内の企業で調理する場合と、ケータリング企業内で調理して輸送する場合があること、③原料の調達は、全国展開している企業でも、一括仕入れは行われておらず、店舗ごとに小規模に行われており、契約生産等は一般的ではないことが明らかになった。