2024 年 74 巻 4 号 p. 677-696
本稿は,合理的配慮(新しい概念)と直接差別(伝統的な概念)との弁別を念頭において構築された従来の差別理論の同一モデル及び差異モデルという鍵概念をもってしては,直接差別と合理的配慮との関係や合理的配慮とアファーマティブ・アクションとの関係を適切に説明しえない,ということを明らかにする.また,本稿は,従来の差別理論に代わる新しい差別理論(私見)のほうがこれらの関係をより適切に説明できる,ということも明らかにする.この新しい差別理論は従来のいくつかの拙稿を踏まえたものである.
新しい差別理論は,実定法上禁止される障害差別をこう理解する.障害差別とは,事柄主義の下で,障害が事柄の非本質部分に該当し,かつ,たとえば適性が事柄の本質部分に該当する場合において,障害者と非障害者とが等しい適性を備えているときに,障害への考慮または非考慮により両者を等しく扱わないことをいう.そして,障害差別禁止法は「健常者(中心)主義」を否定し,「事柄主義」を採用し,「障害者(優遇)主義」からは距離をとる.
合理的配慮義務は,「事柄主義」に基づき「事柄の本質部分」(適性)に関して等しい者を等しく扱えという命令を墨守する点では,直接差別の禁止と同質である.一方,アファーマティブ・アクションの要請は,「障害者主義」に基づき「歴史的・構造的な差別による障害者の不利益」の積極的是正を図るためにあえて当該命令に違反する点で,合理的配慮義務と異質である.