日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 306
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発表要旨
防災教育を担う中核教員育成に関する研究
―大分県を事例に―
*村田 翔
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抄録
1.研究目的
 2011年の東日本大震災以降,学校における防災教育の必要性が高まっている。2018年も平成30年7月豪雨(西日本豪雨)や北海道胆振東部地震など甚大な災害が発生しており,日本各地で災害が発生しうる状況である。その被害規模もこれまでの想定を上回るものとなっている。そのため,学校現場ではより実践的な防災教育に取り組んだり,教育委員会が主導して防災教育に関するマニュアルを整備したりするなど,様々な取り組みが行われている。しかし,学校は通常の教育活動に加えて多方面からの社会的要請,限られた授業時数,校務分掌など多忙化を極めており,新たに防災教育を設定して取り組んでいくのは限界がある。すなわち,防災教育を通常の教育活動内にうまく組み込みながら学校に関わる利害関係者が協力して取り組めるかが重要となってくる。その協力体制を構築する方策として,学校に分掌あるいは役職の一つに「防災教育を主導するための中核となる教員(以下,中核教員)」を設定している地域がある。例えば,宮城県教育委員会では,東日本大震災の被害を踏まえて,平成24年度より「防災主任」を県内の公立学校に配置した。さらに各地域で防災教育の拠点となる学校に「防災担当主幹教諭(現在は安全担当主幹教諭に変更)」を設定している。具体的な名称(役職名)は各自治体によって異なっているものの,防災教育の中核教員を設置することでより実践的な防災教育や学校の体制づくりを進めている。
 以上のことから本研究では,中核教員を調査対象として,防災教育の主導役としてどのような役割が求められ,その役割を果たす上での課題や中核教員を設置したことによる効果などを分析することを通して,防災教育を担う中核教員育成の在り方や課題を明らかにし,防災教育の充実を図ることを目的とする。
2.研究方法
 本研究では,中核教員を設置している自治体のうち,大分県教育委員会が導入した「防災教育コーディネーター(以下,コーディネーター)」に対する郵送によるアンケート調査並びに実施主体である大分県教育委員会への聞き取り調査を実施した。主な業務は,より実践的な防災訓練の企画・実施,校内での防災教育に関する連絡・調整(カリキュラムマネジメントなど),防災に関する校内外の連絡調整などである。大分県では平成30年度よりコーディネーターの設置を始めたばかりであり,初年度は先行実施として県内の公立学校と一部の小中学校にそれぞれ1名ずつ導入されている。
3.研究結果
 アンケートの結果は以下のとおりである。コーディネーターになった経緯について大部分の教員が管理職から直接指名があったとのことであった。そのため,回答者自身が現在の力量等を用いて防災教育実践に取り組む自信があるかどうかについては,およそ7割の教員が「あまり自信がない」または「自信がない」と回答しており,コーディネーター自身も防災教育そのものや役割に対してまだ全体像をつかみきれていないことが推測される。コーディネーター業務に関して特に必要な項目としては,災害・防災に対する知識が必要であると回答した教員が最も多かった。一方で,コーディネーターの位置づけに関して不明瞭であるという意見も多く出され,学校内での役割分担をより明確にする必要がある。アンケートの詳細な結果については,当日の発表において報告する。
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© 2019 公益社団法人 日本地理学会
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