日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 315
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発表要旨
高頻度・高精細地形情報を用いた地理的思考を促す地球科学教育の実践
*小倉 拓郎早川 裕弌青木 賢人林 紀代美山内 啓之小口 高田村 裕彦小口 千明
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抄録
1.はじめに

 自然地理学の基礎的な内容を学習・理解するためには,板書による座学だけでなく,室内実験やその動画,野外写真などの適切な教材を提示し,自然現象について推定する必要がある.しかし,日本の小中高等学校における地球科学教育は,地理(社会科・地理歴史科)と地学(理科)とに分かれている.そのうち,地理では,学習指導要領で自然現象のメカニズムそのものを学習することが制約されているため,自然地理学的な基礎事項を理解することができる環境が充分に整っているとは言えない.
 近年広く利用されている無人航空機(ドローン)による写真測量や,地上レーザ測量を用いて,直接的なモニタリングで得られる高頻度かつ高精細な地表情報は,短時間で変化する現象を再現することができる.さらに,得られた3次元地表情報は,様々な表現方法(3Dプリントモデル,動画,オルソ画像)に容易に変換・出力することができる.
 本研究では,学習指導要領の枠外において,高頻度・高精細地表情報を利用した小学校における授業実践・地域連携の例について提示し,児童らの地理的思考力の養成について検証した.

2.実践例①~高頻度・高精細オルソ画像の使用~
 石川県川北町川北小学校・橘小学校・中島小学校第5学年における理科の授業(単元:流水の働き)で,小学校付近を流れる手取川の河床の高解像度オルソ画像(2017年7月・9月撮影)を提示し,そこから読み取れる事象について質疑を行った.児童らは2か月間で動いた石,動かなかった石や枝などに注目して,撮影間に流水があったことに気づいていた.その後,動かなかった石が動くためにはどうすればいいかを推測した児童から,「強い流水がくれば石は動く」という気付きを得た.このように,児童たちは地形変化の様相を,オルソ画像の変化から認識し,営力の規模と地形変化の大小との関係等を考察することができた.その後,過去の災害に関する学習(昭和9年手取川大水害)や,WebGISを用いた災害図上訓練(DIG: Disaster Imagination Game),自治体や河川管理機関と協力した防災訓練を行い,過去の災害規模や未来の災害予測に対する地理的思考を通して,学習を深化させることができた.

3.実践例②~3Dプリントモデルの使用~
 横浜市千秀小学校第6学年の総合的な学習および図画工作科の授業で,地域の大型地形模型を作成した.その導入として,無人航空機による写真測量の手法についての授業を行った.そこでは,2時期に取得した海食崖の地形データを3Dプリンタで印刷し,2つのモデルを提示した.児童たちは,モデルに手で触れながら2年間の地形変化(侵食・堆積)の位置や量を感じ取った.さらに,海食崖の過去・未来の様子を推測する児童の発言があった.また、作成した大型地形模型を利用して地域住民と意見交換を行い、過去の地域に関して考えてみた.
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© 2019 公益社団法人 日本地理学会
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