日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 719
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発表要旨
日本の地方圏に在住する中国人ニューカマーの定住化に関する考察
--熊本市を事例に--
*丁 茹楠
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抄録
1.目的
2000年代以降、政治・文化・経済のグローバル化の発展などとともに、国際人口移動はますます活発になった。人口巨大国である中国では、1980年代の改革・開放政策の実施に伴い、海外移動の制限を緩和し、海外移動が急増した。一方、日本では1980年代のバブル経済期に労働力不足問題が顕著になり、日本政府は外国人の受け入れを進めた。こうして日中間の国際人口移動が活発化している。
在日外国人の地理的分布は大都市圏に集中傾向にあるが、近年では、地方圏でも外国人人口の増加が顕著であり、加えて定住化も進行している。しかし、地方圏に中長期在住する外国人の生活の実態や定住の過程に焦点を当てて分析した研究は不十 分である。
このような問題意識から、本研究は地方圏の事例として熊本市を取り上げ、5年以上滞在している中国人ニューカマーを対象に、彼らの生活の全体像を明確するするとともに、定住化の実態とその要因を明らかにすることを目的とする。その際、特に在留資格の変更歴を男女別、来日時期別に分けて検討し、熊本市の中国人ニューカマーの特徴をより明確に明らかにする。
2.研究方法
熊本市に在住している中国人ニューカマーを調査対象にして、主に①アンケート調査、②聞き取り調査に大別し、調査を行った。①アンケート調査はQRコードと紙媒体両方とも実施し、合計50名から回答を得た。
3.結果の概要
調査対象者は中国の地方出身者が大半を占めており、在熊中国人ニューカマーの主な来日理由は留学と国際結婚である。熊本に来た主な理由は、同胞とのつながりと地方の暮らしやすさの2点が挙げられる。
調査対象者の在留資格の変更歴を男女別に比較すると、男性は留学を目的とする来日が主で、留学期間終了後全員が就職した。他方、女性は「留学」以外にも「日本人の配偶者」や「家族滞在」も多かった。女性の方が「永住者」の取得に対し、強い意欲を持っている。
次に来日時期による違いを見ると、①日本国籍に帰化する者は近年減少傾向にあること、②熊本市の中国人留学生の増加に伴い、日本に就職する者が増加したこと、③初来日時の在留資格が徐々に多様化していること、が判明した。
熊本市の中国人ニューカマーの定住化の要因として、家族的な事情、地方圏での生活しやすさ、貧しい出身地から離れたいという気持ちがある、という3点が指摘できる。
調査対象者の中で、日本国内の他地域から熊本市に移動した経験を有するものは少数であった。このことは熊本市に在日中国人に対する就業機会が多くはないことを反映している。
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