抄録
熱帯地域では、西欧による植民地支配下で、茶やコーヒーなどの嗜好品が生産されてきた。その多くは、栽培から収穫、加工、販売までを企業的に大規模に行うプランテーションという方法で行われており、国家が独立した後の現在にも引き継がれている。プランテーションは、労働力を低賃金で雇用したり、肥料や農薬を農地に大量に投入したりする「搾取」をする性質を持ち合わせており、しばしば飢餓や貧困、社会的不平等などの問題が顕在化する。また、茶業は、気候変動や景気の変動の影響を受けやすく、価格が乱高下することから、プランテーション企業自体の経営も不安定である。最近では、いくつかの産地は、観光やフェアトレードのような取り組みを通して、このような問題を解決・克服しようとしている。本研究は、マレーシア・キャメロンハイランドにあるティープランテーションを事例として、生産機能と観光に代表される消費機能に着目し、空間的な特徴を明らかにする。
キャメロンハイランドは、マレーシアの中部に位置する高原保養集落(ヒルステーション)で、イギリス統治時代に、マレーシアに長期間駐在するイギリス人が避暑をするために建設された。インドなどにすでに建設されていたヒルステーションを手本に、「行政」「観光」「茶業」「農業」の4つの機能が、計画的に配置された。
キャメロンハイランドにおけるティープランテーションは、インドやスリランカから茶業技術と茶の職人を呼び込み、山中の広大な森林を切り開いて大規模に栽培することではじまった。現在、2社の紅茶会社が、合計2000haの茶園を経営し、年間で5000トン近くの紅茶を生産し、出荷している。キャメロンハイランドにおける茶園は、合計6箇所あり、茶園内では、茶の木だけが敷き詰められるように植えられている。比較的大きい茶園は、いくつかの地区を設け、分割して管理されている。地区ごとに加工場、出稼ぎ労働者の住居や彼らの生活のための施設が設けられている。労働者たちは、日替わりで地区ごとにローテーションで茶摘みを行い、すぐに工場へと運搬して加工過程にまわされる。加工場は、発酵から包装までを一括して行う。製茶された紅茶は、それらの工場から出荷されるが、多くは国内で消費され、一部は外国に輸出される。このように、現在も、茶園で茶を効率的で大規模に栽培し、労働集約的に茶葉を摘採して、同茶園内にある工場で一括して加工を行っている。マレーシアで生産される茶のほとんどが、キャメロンハイランド産である。
4か所の茶園は、一般人・観光客向けに一部開放されている。幹線道路沿いに位置する茶園は、特に訪問者が多く、自家用車や観光バスを利用して乗りつけてくるため、大きな駐車場が整備されている。幹線道路から狭い小道の先にある茶園は、大きな茶園が多いが、アクセスが不便である。
訪問者は、自家用車やタクシーを使って、茶園を訪れ、併設するカフェでお茶を飲んだり、食事や軽食をしたり、展望台や散策路から茶畑の景観を眺めたり、土産品として茶を購入したり、工場を見学して楽しむ。茶園は広大であるが、観光客が入るスペースと茶園での労働者・従業員が働くスペースは、ある程度分けられていて、作業への支障を抑える工夫がなされている。いまやキャメロンハイランドの主な観光アトラクションの1つとして、国内外から多くの観光客を呼び寄せている。