抄録
1.はじめに
本研究ではLondonを研究対象地域とし、英国主要メディアによって配信されたLondonのGf関連の記事内容(2010~2018年)について分析する。そしてLondonにおいてGf発生地域として認識されている地域の分布を把握し、記事においてGfがどのように捉えられ記述されているのかということについて考察する。なお、本研究においてはGfの発生や影響がみられる地域としてメディアによって認識され記事の中で言及されている地域を「Gf発生地域」としている。そのため本研究で言う「Gf発生地域」はあくまでもメディアによって認識されているGf発生地域であるため、必ずしもそのすべての地域において実際にGfが発生していると言い切ることはできない。その点に留意しながらも、Gfの実態やGf発生地域の分布を明らかにする手段の1つとして、メディアの記事の分析に一定の有効性があるということを本研究を通じて示したい。
2.研究方法 ―― 英国主要メディア8社によるGf発生地域への言及
本研究では、英国国内における知名度や政治的立場(リベラル、保守等)、想定読者層(高級、大衆)等を考慮して選定した英国内の主要メディア8社によって、2010年から2018年の期間にインターネット上で配信された記事を研究対象とした。そして、各社の記事の中でGfという言葉そのものとそれに類する言葉を含み、かつ特定地域におけるGfの発生を内容として含んでいる記事を抽出した上で、Gfが発生しているとされる地域の分布の特徴やそれぞれの記事におけるGf関連の記述内容について分析を行った。
3.地理的分布と記事内容にみるLondonのジェントリフィケーション
今回分析対象とした記事の中で確認された全地域のうち約80%がLondonの都心区部にあたるInner Londonに位置している地域で、Gf発生地域として最も多く言及されている上位の5地域もそのInner Londonに位置していることが明らかとなった。またInner Londonの中では中央北東区部、中央南区部に位置する地域がGf発生地域として特に多く言及されていた。中でも最も多く言及されていたのはCity of Londonに近接するShoreditch/Spitalfieldsで、London南部のBrixtonがそれに続いた。このShoreditch/SpitalfieldsとBrixtonの2地域は2010年以降にともに50回以上Gf発生地域として言及されている。また、時間軸に注目して記事を整理した場合、一定期間に集中的に特定地域への言及が増加するケースも見られた。例えばBrixtonにおける反Gfデモ(2015年4月)、ShoreditchおよびSpitalfieldsで展開された反Gfデモ(2015年9月)のようにデモ行進から一部の参加者による店舗の破壊行為へと発展したケースでは、複数のメディアによって集中的に報道される動きが見られ、言及回数の急激な増加へとつながっていた。主要メディアの記事の中でGfの中心的要素となる事象として最も記述されることが多かったのは、地価の上昇、居住者階層の上方変動(階層)、新しい飲食店や衣料品店の出店もしくはそれらの集中的立地(消費)、立ち退き問題であった。中でも階層に関しては「young professional」や「middle-class」の増加の他に、「hipster」、「yuppie」、「Bohemian」といった特定の文化的・社会的コードを持つ人々への言及も多く、消費に関してもGfと「cafe」、「coffee shop」、「pub」が頻繁に併記されるなど、欧米都市特有の表現や文脈を確認することができた。また「trendy」や「desirable」、「upmarket」という言葉をもってGf発生地域が形容されるケースが多い中、一方では「eviction」、「displacement」、「price out」等の言葉をもって低所得者層の立ち退き問題へ言及する記事も見られ、そうした記事では「class war」や「class division」、「social cleansing」といった言葉が併記され、Gfが問題視されるケースが多く見られた。
4.結論 ―― Londonのジェントリフィケーション研究の展開
Gfに関する記事の存在によってGfという現象、Gf発生地域、反Gf運動の存在、Gfの問題点等が言語化され広く社会に周知されているということが明らかとなり、LondonのGfの特徴についても部分的に把握することができた。今後は近年のLondonのGf研究も分析対象とし、LondonのGf発生地域とその地域的特徴を多角的に把握していくことが研究課題となる。