日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 834
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発表要旨
定住意識の規定要因について
日本版総合的社会調査の結果から
*滕 媛媛
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抄録

日本では人口減少問題が深刻化している。また、東京などの大都市圏では人口が集中している。一方で、多くの地方都市では、人口が流出しつつある。しかし、人口は経済の好循環の土台である。このような状況を改善させるため、国も自治体も積極的に取り組んでいる。国の取り組みとして、「定住自立圏構想(2008)」や「まち・ひと・しごと創生法(2014)」などがある。また、多くの自治体は移住・定住促進政策を打ち出し、人口誘致を図っている。本研究は人口移動の前段階の定住あるいは移住意識に注目し、日本総合社会調査(JGSS)のデータを用い、定住意識の概況と変化を整理し、その規定要因を解明することを目的とする。また、定住意識の低い人=潜在の移住人口に対する分析を通じ、より有効な人口誘致・定住促進策の提案を試みる。
 日本版総合的社会調査(以下、JGSSと略する)では、2005年より「現在の居住地域に住み続けたいか」との設問を設けている。選択肢として、「ずっと住みたい、当分の間は住みたい、できれば他の地域に引越したい、すぐにも他の地域に引越したい」がある。全体からみると、2005年から2015年の変化は大きくなく、それぞれ54%、35%、10%、1%付近で変動している。居住地域規模(大都市中心部、大都市郊外、中小都市、町村部、人家がまばらな農山漁村の5分類)からみると、大都市郊外の住民の中で、「ずっと住みたい」と回答した住民の割合の平均(2010-2015年)が45.1%で、最も低かった。一方で、人家がまばらな農山漁村の住民の中、「ずっと住みたい」と答えた割合が最も高く、その平均は72%に達している。ただし、近年、農山漁村の住民の定住意識が次第に弱くなってきている。
 定住意識の規定要因を解明するため、JGSS-2015のデータを用い、定住意識を被説明変数(「ずっと住みたい、当分の間は住みたい」=「定住意識が高い(1)」、「できれば他の地域に引越したい、すぐにも他の地域に引越したい」=「定住意識が低い(0)」)とする二項ロジスティック回帰モデルを構築した。説明変数は回答者の基本属性、居住環境及び職業意識の3組の変数からなる。分析の結果、配偶者がいる人、家を所有している人、居住地域に対する満足度の低い人、居住地域の存続に対する不安及び買い物の不便さを感じる人、それに、起業意識の高い人、転職経験の多い人ほど、定住意識が低くなる確率が高いことがわかった。これにより、一部の自治体が既に実施している起業意欲のある人を対象とした移住促進政策が有効だと考えられる。

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