日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 536
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発表要旨
平成30年7月豪雨における道路啓開活動に関する考察
- 倉敷市真備町のケーススタディ-
*白井 伸和
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抄録

1.目的と背景 
 2018 年7 ⽉6 ⽇~7⽇に起きた平成30 年7 ⽉豪⾬による災害は,⻄⽇本を中⼼に多くの災害をもたらした。特に,岡⼭県及び広島県,愛媛県においては,各種の報道にもあるように多くの⼈的被害をもたらした。
 筆者が災害応急対応を⾏った,岡⼭県倉敷市真備町の被害状況は,死亡者を含めた⼈的被害は157 ⼈,住宅被害においては,全壊及び半壊等を含む損壊家屋が5,899 棟とる⼤きな被害を被った(2018 年9 ⽉値,岡⼭県調べ)。
 平成30 年7⽉豪⾬によって被災した道路等の交通インフラの応急復旧の前段として,道路啓開を⾏うこととなる。これに関わる国及び市の対応として,国道の復旧は国⼟交通省直轄班及び国より応急復旧作業を請け負った⼤⼿建設業者による道路啓開作業を⾏い,市道及び市管理県道では,地元建設業者を中⼼とした,地元建設業組合が道路啓開作業を⾏った。
 道路啓開を⾏う中で,市が担当する市道は⽣活道路であり,道路啓開を⾏い⾞両等の通⾏が確保されないことには,被災家屋からの資材搬出及び⼟砂搬出が⾏えないことから,早急に道路啓開を⾏わなければならなかった。これらの道路啓開について,国及び市の対応について⾔及し,道路啓開と並⾏して,現地に赴いたボランティアがどのような活動を⾏い,地元住⺠に対してどのような⽀援を⾏っていたかについて述べる。
 これらを踏まえ,本発表では,倉敷市真備町の⽔害の歴史と地域的特徴を述べるとともに,⼤規模な災害に対する地域復旧に関する課題について述べる。課題点とは,被災地の災害応急対応⼒の著しい低下と復旧のための⼈員及び資源の⼈⼝密集地への集中がみられる。
 つまりは,被災により住⺠による共助体制の⽡解及び地元建設業者による災害対応が不能に陥る。また,公的機関を含む⼈⼝密集地が着⽬され,地域内において⽐較的多くの⼈員及び資材等が応急復旧活動に投⼊される。しかし,地域の縁辺になる箇所においては,⼈⼝密集地への⼈員及び資材等の集中から,多くの⼈員及び資材を割り当てられない。また,実作業の問題点として,現在では,⺠地に⼊り込んだガレキ混じり⼟砂は公費等での撤去が⾏える様になったが,被災当時はそのような取り決めもなく,多くの住⺠より現地で要望されたが,⺠地であることを理由として⾃治体での撤去はできなかった。これらの事象を今回の豪⾬災害対応との関係で地元⾃治体と地元建設業組合が⾏った道路啓開活動の実態と課題について発表する。

2.結果
 災害に対する対応の柱として,住民同士の共助があげられるが,今回の様な大規模災害では多くの住民が被災していることから,共助体制が取れなかった。また,真備町を地場とする地元建設業者も被災していることから,初動体制がといれなかった。結果,同市内の他地区建設業者が初動体制に当たった。つまりは,地元建設業者の従業員も被災地の住民であり,災害に対処できず大きな災害の前では地元に備わっている災害応急対応力は低下する。
 災害応急対応力の低下に際し,自治体等による対応もあるが,ボランティアによる対処が著しく,今後の災害対応力の柱の一つとしてボランティアの力が重要であり,ボランティアを呼び込む自治体の力とそのボランティアに対する適切な対応が災害応急対応力に関わってくると言える。

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© 2019 公益社団法人 日本地理学会
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