日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S701
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発表要旨
地理学のアウトリーチのヒント
シンポジウム趣旨説明
*長谷川 直子
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キーワード: アウトリーチ, 地理学
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抄録

1. はじめに/シンポジウムの目的

 社会に対して学術情報を発信することは、アウトリーチや科学コミュニケーションと呼ばれる。なお本シンポジウムでは両者を合わせてアウトリーチと呼ぶ。

 地理学のアウトリーチ研究グループでは、2017年春季学術大会において、「地理学のアウトリーチ・科学コミュニケーション活性化のために」というシンポジウムを開催した。つづく今回のシンポジウムでは、それぞれのフィールドで地理関連コンテンツの発信を手がけている人たちの活動内容や工夫、受け手の反応を知ることで、一般の人に地理学に興味を持ってもらうヒントをえる場としたい。具体的には、サークル的まちあるき活動、第四紀学会、一般書籍を事例として関係者から話題提供を頂く。

 さらに今後地理学を発展させていくためにそれぞれどのようなアウトリーチができるのか、会場を巻き込んで意見を出し合いながら議論を深め、今後の地理学のアウトリーチの活性化へつなげる機会とできればと考えている。



2. 登壇者の発表内容とシンポジウムでの位置付け 

 招待講演として、東京スリバチ学会会長の皆川典久氏より、東京スリバチ学会での活動を紹介いただく。皆川氏は地理学出身者ではなく建築関係の仕事をされているが、趣味として地形に大変な関心を持ち、東京スリバチ学会というサークル活動を立ち上げた。『東京「スリバチ」地形散歩1・2・多摩武蔵野編』(洋泉社)は売れ行き好調となっている。カシミール3Dなどを駆使した大変ビジュアルに訴える地図表現と、心から楽しいと思って話す話術に多くの人が魅了され、コアなファンも多い。東京スリバチ学会の活動が周知されるにつれ、全国に地方のスリバチ学会が結成されるようになった。皆川氏が行っている活動は、地形のことを全く知らない人に対してその面白さを広めるという点で、アウトリーチを進めるヒントが詰まっている。特にビジュアルに訴える地図・パワポ表現と話術は、地理関係者が授業や巡検を行う上でも大いに参考になると思われる。

 次に、千葉科学大の植木岳雪氏より、第四紀学会を中心とした、地質系学協会でのアウトリーチ活動に関する報告をいただく。一般に地理に比べて地学では、高校での開講が少ないこともあり危機感が大きく、アウトリーチ活動が比較的盛んに行われている。隣接分野でのアウトリーチ活動は地理学会でのアウトリーチ活動を進めていく上で参考になる点が多々あると思われる。

 最後に、(有)ベレ出版編集者の森岳人氏から、一般書の視点からのアウトリーチについて話題提供をいただく。森氏は「出版業界から見た地理学のアウトリーチ」という論文をE journal GEOに執筆しているが(森2018)、この話にも触れつつ、一般書(前提知識を必要としない、中規模の書店でも販売されている本)の中での地理学関連書籍の置かれている状況の概要と、一般書を書くというのはどういうことなのかについて、レベルの設定や内容の選定、企画の立て方、などについて概説をしてもらう。地理学関連の一般書が少ない現状を学界内でも共有し、また、これまでに一般書を書いたことがないが執筆に興味がある人にとっては、地理一般書を書くときのイメージが持てると思われる。

 以上の主に3点から、様々な情報を得ることで、今後の地理学界のアウトリーチの活性化を、個人レベル、また組織レベルで進めていくヒントが得られると考える。



 なお、シンポジウムは午前中に開催するが、午後は希望者を募り(先着20名)、皆川氏による四谷・荒木町まちあるきを開催し、巡検のやり方を現地学習する予定である。





参考文献

長谷川直子2017 地理学のアウトリーチ・科学コミュニケーション活性化のために, E-journal GEO, 12(1),151-154.

皆川典久 2012,2013,2017, 「東京「スリバチ」地形散歩1・2・多摩武蔵野編」洋泉社.

森岳人2018, 出版業界から見た地理学のアウトリーチ E-journal GEO, 13(1),170-183.

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© 2019 公益社団法人 日本地理学会
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