日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 220
会議情報

発表要旨
「新宿二丁目」地区と英語圏型ゲイ・ディストリクトとの比較
*須崎 成二
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
Ⅰ はじめに

都市には同性愛者の居住地や同性愛者向け商業施設の集積がみられる地区が存在し,その地区はゲイ・ディストリクトと呼ばれることが多い.ゲイ・ディストリクトにおける同性愛規範的(homonormative)な空間は,同性愛者のアイデンティティ構築や彼ら・彼女らのコミュニティ形成を促す場所として重要視されている.しかしその一方で,現在ではSNSなどの普及によるオンライン上での交流の増加や(Collins and Drinkwater 2017),ジェントリフィケーションに伴う居住者および商業施設の立ち退き(Ruting 2008)がゲイ・ディストリクトの機能を低下させ消失させる要因として着目されており,英語圏ではこのようなゲイ・ディストリクトの変化がモデル化されている(Collins 2004; Collins and Drinkwater 2017; Ruting 2008).

本報告では,英語圏におけるゲイ・ディストリクトの発達モデルを踏まえ,日本におけるゲイ・ディストリクトとの共通点・相違点を明らかにすることを目的とする.対象地域は,日本最大のゲイ・ディストリクトである「新宿二丁目」とし,ゲイ男性向け商業施設の立地の変遷と再開発との関係性およびジェントリフィケーションを伴う再開発の要因を考察する.



Ⅱ 研究方法

ゲイ男性向け商業施設の数・分布の変遷を把握するために,ゲイ関係の雑誌およびホームページを参考にした.また,対象地域におけるビルの建て替え時期を把握するために住宅地図および「不動産アーカイブ」の閲覧と不動産企業への聞き取りを行った.



Ⅲ 結果と考察

 新宿二丁目周辺は1970年代から再開発が進行し,それはバブル崩壊の1990年代前半まで続いた.この時期には,ゲイ向け商業施設が入居していたと考えられるビルの多くが建て替えの影響を受け,欧米の発達モデルと親和性が高い.ただし,その後に低下・消失に向かうのではなく,むしろ再開発によって建設されたビルにゲイ向け商業施設が立地することで,新宿二丁目周辺がゲイ・ディストリクトとして維持されていた.
 新宿二丁目は行政が関わる再開発から取り残されてきたが,民間による高層マンションやビルの建設が進行している.とくに新宿御苑に隣接する高層マンションの建設は,ジェントリフィケーションを引き起こす重要な要素であるが,ゲイ・ディストリクトの魅力ゆえにジェントリフィケーションが生じる英語圏の発達モデルとは異なり,新宿二丁目は駅へのアクセスと新宿御苑という外部要因によるところが大きいと考えられる.
著者関連情報
© 2019 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top