日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 711
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発表要旨
南アフリカ,ヨハネスブルグのチャイナタウンの地域的特色
*山下 清海
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抄録

1.はじめに
 世界各地に多数のチャイナタウンが形成され,特定のチャイナタウンの事例研究も多くなされている。しかし,グローバルな視点から,世界のチャイナタウンを比較研究し,それらの共通する特色や地域的特色を考察した研究は乏しい。
 1978年末以降の改革開放政策の実施後,海外へ移り住む中国人が急増し,彼らは中国では「新移民」と呼ばれる。新移民は,移住先のホスト社会への適応様式において,以前から海外に居住していた「老華僑」とは大きく異なる。本研究では,「老華僑」と比較するために,「新移民」のことを「新華僑」と呼ぶことにする。
 従来,アフリカ大陸は,南アフリカを除き,いわば華人空白地帯であった。しかし,中国政府のアフリカ重視政策に伴って,アフリカ大陸各地に,多数の新華僑が移り住んでいる。このようなアフリカ大陸における新華僑の実態については,マスメディアで注目されているが,アフリカの新華僑に関する研究はまだ少ない。そこで本研究では,アフリカの中でも,最大の華人人口を有する南アフリカの最大都市ヨハネスブルグにみられる新旧のチャイナタウンに着目し,ヨハネスブルグのチャイナタウンの地域的特色を明らかにすることを目的とする。2018年9月,3ヵ所のチャイナタウンにおいて,土地利用調査,聞き取り調査などを行った。

2.オールドチャイナタウン~ファースト・チャイナタウン~
 世界のチャイナタウンは,おもに老華僑によって形成されたオールドチャイナタウンと,新華僑によって形成されたニューチャイナタウンに二分できる。CBDの近くに形成されたファースト・チャイナタウン(First Chinatown,中国語では第一唐人街または老唐人街と呼ばれる)が,ヨハネスブルグのオールドチャイナタウンである。
 1991年のアパルトヘイト関連諸法の撤廃後,CBDは衰退し,そこに大量の移民が集住し、治安が悪化した。これに伴い,ファースト・チャイナタウンは衰退し,新華僑もここに居住することはなかった。現在,ファースト・チャイナタウンには,杜省(トランスバール)中華会館(1903年創立)や杜省華僑聯衛会所(1909年創立),中国料理店(3軒),その他の華人経営の店舗(4軒)が残るのみである。

3.ニューチャイナタウン~シリルディン・チャイナタウン~
 新華僑は,治安が悪いヨハネスブルグ中心部を避けて,東郊に多く居住した。なかでもCBDからから北東約6kmの郊外に位置するシリルディンに新華僑が集住し,郊外型ニューチャイナタウンが形成された。中国・南アフリカ両国の政治的関係の強化に伴い,シリルディン・チャイナタウンは,2005年,「ヨハネスブルグ・チャイナタウン」(約翰内斯堡唐人街)としてヨハネスブルグ市に登録された。2013年には,牌楼(中国式楼門)も建設された。
 シリルディン・チャイナタウンのメインストリート,デリック・アヴェニュー(Derrick Ave.,西羅町大街)の両側には,筆者の調査で華人関係の店舗・団体が38軒認められた。このほか、店舗の2階、3階などに「住宿」と書かれたゲストハウスやマッサージ店なども見られる。シリルディン・チャイナタウンでは、「超市」(超級市場の略語)の看板を掲げたスーパーマーケットと中国料理店が中核をなしている。

4.モール型チャイナタウン~チャイナモール~
 一般にチャイナモール(China mall,中国商場)と呼ばれる新華僑経営の店舗が集中するショッピングモールが,Crown Cityなどヨハネスブルグの市内各地に形成されている。これらチャイナモールは,新華僑の重要な経済活動の場であるとともに,居住・生活の場でもあり,モール型ニューチャイナタウンである。チャイナモールでは,中国から輸入した様々な商品を現地向けに販売する新華僑が経営する店舗が集まっており,防犯のため,高い塀で囲まれ,自動小銃を構えた警備員が警戒している。
 ヨハネスブルグでは,上述したような3つの類型のチャイナタウンを確認することができた。オールドチャイナタウンの衰退やチャイナモールの厳重警備も,治安悪化というヨハネスブルグ特有の地域的特色を反映しているといえる。

〔付記〕本研究を進めるにあたり,平成29~33年度科学研究費基盤研究(B)(一般)「地域活性化におけるエスニック資源の活用の可能性に関する応用地理学的研究」(課題番号:17H02425,研究代表者:山下清海)の一部を使用した。
文献
山下清海(2016):『新・中華街―世界各地で<華人社会>は変貌する』講談社.
山下清海(2019):『世界のチャイナタウンの形成と変容』明石書店.

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