抄録
1.はじめに
1990年代後半以降,日本の大都市,特に東京では都心部やその周辺での人口回復が継続している。そうした人口回復の中心となっているのが分譲マンションの供給であり,その動向に関しては多くの研究がなされてきた。そうした中で本研究では,1997年から2016年までの20年間の東京都中央区における分譲マンション供給の変化と,マンション立地前の土地利用について明らかにする。中央区の人口は,高度経済成長期以降減少を続けたが,1997年の7.2万人を底としてその後は増加を続け,2018年1月には15.7万人と2倍以上に増加し,最も人口回復の顕著な地域の一つである。中央区に関しては,川崎(2009)が立地規制や規制緩和に関するローカルルールを詳しく説明している。また国土交通省(2001)によると,中央区の90年代後半のマンション立地前の用途は駐車場や空き地の低未利用地が半分を占めていた。
調査にあたって,分譲マンションに関する資料として不動産経済研究所による『全国マンション市場動向』を,土地利用に関する資料としてはゼンリン発行の住宅地図を使用した。各マンションについては,販売年,販売戸数,分譲面積,位置等を調べた上で,住宅地図を用いて各マンションの最終販売年,その3年前,6年前の土地利用の状況を調査した。
2. マンション供給の動向
この間のマンション供給の動向をみると,2005年までは全国で毎年16万戸前後の供給があったものが,2009年には半分の8万戸まで急減し,その後は8~10万戸/年で推移している。これには2005年のマンション耐震偽装事件やリーマンショックなどが影響している。一方東京都中央区では,2005年から急減したものの,近年は大型物件の発売が相次いで活発な供給が続き,2000年代前半のピークを越える年もある。中央区での一戸あたりの販売価格は,2000年代前半は平均4千万円だったが,その後上昇傾向が続き,2016年では8千万円と2倍ほどになっている。
3.中央区におけるマンションの立地
1997年から2016年にかけて,中央区で販売された分譲マンションとして368件,29,552戸が抽出された。368件のうち300戸以上の大規模マンションは14件で,10,362戸と販売戸数全体の35.1%を占める。分布では,山手線に近い第1ゾーンが17件と少なく,その東側の第2ゾーンが277件,月島・晴海などの第3ゾーンが74件となっている。大規模マンション14件のうち13件は第3ゾーンに立地し,10件は市街地再開発事業や土地区画整理事業,大川端リバーシティ21地区に立地する。一戸あたり平均面積では,第1ゾーンは平均面積40㎡未満,第2ゾーンは50~60㎡,第3ゾーンは60~70㎡のマンションが多く,ゾーンごとに特徴が見られる。2008年以降 時期を10年ごとに前半と後半に分けると,前半の㎡単価は71万円だったが,後半は95万円とかなり上昇した。また,ワンルームマンション規制により平均面積40㎡未満のマンションは後半になると減少している。
4.マンション立地前の土地利用
マンション立地前の土地利用に関して,住宅地図を用いて6年前の状況をみると,368件のマンション敷地は1,206区画に分かれていた。そのうち1区画だったケースは151件で,その場合6年前の用途は業務が2/3を占めていた。前半と後半に分けると,前半では更地・駐車場の低未利用地が区画の35%を占めていたが,後半には20%に低下し,かわりに住宅が14%から23%,業務が48%から54%へと上昇した。バブル後の低未利用地への立地から,既存建築物の再開発による立地へと変化してきている。中央区では,現在でも古い住宅や併用住宅が少なからずあり,また,晴海においてはオリンピック選手村が終了後に分譲マンションとなる予定であり,当面マンション供給は続くと考えられる。
文献
川崎興太 2009.『ローカルルールによる都市再生―東京都中央区のまちづくりの展開と諸相』鹿島出版会.
国土交通省編2001.『土地白書』財務省印刷局.