日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P002
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発表要旨
ハザードマップポータルサイトにおける多様な災害リスク情報の提供について
*上芝 卓也藤井 夢佳吉松 直貴髙桑 紀之山崎 航諏訪部 順
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抄録

1 はじめに
 平成18年6月に策定された「国土交通省安全・安心のためのソフト対策推進大綱」に,全国の各種ハザードマップを一元的に検索・閲覧可能なポータルサイトを設置することが明記された.これを受け,国土地理院では,国土交通省水管理・国土保全局等と協力して,「国土交通省ハザードマップポータルサイト(以下「本サイト」という.)」を平成19年4月から運用している.メインコンテンツとして,様々な災害リスク情報等を重ねて表示できる「重ねるハザードマップ(以下「重ねるHM」という.)」と,全国の各市区町村が作成したハザードマップへのリンク集である「わがまちハザードマップ(以下「わがまちHM」という.)」を公開している.
 平成27年度に,本サイトの認知度,活用状況,ニーズ,課題を把握するために,地方公共団体(対象:11都道府県及び7市町村)や居住者等(サンプル数:約1000人)に対してアンケート調査を実施した(本嶋ほか,2016).得られた調査結果を基に,優先順位をつけて「任意の地点の各種災害リスクをまとめて表示する機能の追加」,「スマートフォン対応」,「災害種別ごとに必要な情報をパッケージ化」等のサイトリニューアルを行ってきた.一方,「データを充実して欲しい」をはじめとして「避難施設情報を追加して欲しい」「掲載データをオープンデータ化して欲しい」等の要望は未対応であった. これらの居住者等の要望に応えるため,平成30年度は提供データの拡充を図り,また,各種災害リスク情報のオープンデータ化を実施したのでその内容について報告する.

2 平成30年度の取組み
 本サイトにおける災害リスク情報のデータ提供について以下の取組みを実施した.
・データの充実
 地理院地図で公開されている指定緊急避難場所(洪水・崖崩れ,土石流及び地滑り・高潮・地震・津波・大規模な火事・内水氾濫・火山現象)を掲載するとともに国管理河川における洪水浸水想定区域(想定最大規模)及び土地分類基本調査の地形分類図を新たに「重ねるHM」に掲載した.
・本サイトのデータを用いた防災アプリ公募
 オープンデータ化に先だって提供するデータ形式の検討を図るため平成30年10月3日~11月30日にかけて防災アプリの公募を実施した.本サイトでは,公募の開始と同時に洪水浸水想定区域(想定最大規模)及び土砂災害警戒区域を試行的にラスタタイルでWeb配信を行った.本公募に応募した9者のシステム開発者はこれらの災害リスク情報を利用した様々なアプリを開発した.特に,優秀なアプリについては防災アプリ賞を表彰した.本取組みを実施することで,民間のシステム開発者に本サイトのデータを実際に活用していただくとともに,提供方法の要望と課題の抽出をすることができた.
・オープンデータ化
 防災アプリ公募の結果を踏まえ,洪水浸水想定区域(想定最大規模)及び土砂災害警戒区域のデータをPNG形式のラスタタイルで引き続き配信することに加え,土砂災害危険箇所を新たに追加した.さらに,これらをGeoJSON形式のベクトルタイルとしてWeb上でオープンデータとして配信することとし,平成31年の出水期までに公開することを目指し,データのベクトル化を開始した.
 また,マスメディア等から「わがまちHM」のリンク集のデータ提供の要望もあったため,本サイトにダウンロード機能を実装しCSV形式で配信した.

3 今後の展望
 今年度は,災害リスクに関わる掲載データの拡充を実施し,また,防災アプリ公募では本データを活用したアプリ開発等のデータ利用に繋がる取組みを実施した.これにより,平成27年度の調査で得られたニーズや課題等に対応したより利便性の高いサイトになった.今回の取組みは災害リスク情報の一層の周知につながり,より多くの居住者等の防災意識の高揚に貢献していると考えられる.
 今後はさらなるデータ拡充や利便性向上を目的として,洪水浸水想定区域(浸水継続時間等)や,ため池ハザードマップ等の各機関が作成した多様なデータを本サイトに掲載し,あわせて機能拡充を実施していきたい.

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© 2019 公益社団法人 日本地理学会
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