主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2020年度日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2020/10/10 - 2020/11/22
1.はじめに
北海道南部,長万部町沿岸の浜堤間に存在する静狩湿原は,日本の低地で高位泥炭地が形成される南限と言われている.本研究では,静狩湿原における掘削調査で得られた新しいデータについて報告する.掘削した試料のうち深度 1.7〜1.2 m は静狩湿原の基底をなすと考えられる砂層で,その上位は泥炭となる.砂層と泥炭の境界から約 10cm 上には,厚さ約 1cm の白色火山灰層が見られた (図 1).これらの試料について,光ルミネッセンス (Optically stimulated luminescence: OSL) 年代測定法で砂層の堆積年代を求めるとともに,テフラの同定を試みた.
2.研究手法
OSL年代測定は Lexsyg Research (Richter et al. 2013) を用いた.深度 145?155cm の砂層に含まれる 250〜180μm のアルカリ長石を対象として, pIRIR180 法 (Reimann et al. 2011) という OSL 年代測定法を用いて等価線量を求めた.また,ICP-MS で試料中の放射性元素濃度を求め,Guerin et al. (2011) の換算式から年間線量を算出した.さらにpIRIR180 法で求められた等価線量を年間線量で除することにより,砂層の堆積年代を見積もった.
アルカリ長石の OSL 年代測定法では,真の年代よりも若くなるフェーディングという現象がしばしば起きることが知られている.そこで,Auclair et al. (2003) の測定方法によりフェーディングが起きているかを確認するとともに,フェーディングによる年代の若返りの補正 (Huntley and Lamothe 2001) を行った.
コア試料に挟まるテフラは,鉱物組成,火山ガラスの形態と屈折率から同定を試みた.京都フィッショントラック製 RIMS2000 により,中村ほか (2002) の手法により脱水した火山ガラスの屈折率を測定した.
3.結果・考察
フェーディングの程度を表す g2days 値は,1.31 ± 0.33 (%/decade) であった.pIRIR180 法の結果,基底砂層の堆積年代は,フェーディング未補正で 3.14 ± 0.25 ka,フェーディングの補正を行うと 3.26 ± 0.26ka と見積もられた.
テフラはほとんどが火山ガラスからなり,火山ガラスの形態はバブルウォール型・軽石型のどちらも含んでいた.脱水ガラスの屈折率は 1.497〜1.511 と幅が広く,バイモーダルの分布を示していた.火山ガラス以外の鉱物に乏しく,特徴的な脱水ガラスの屈折率から,試料中のテフラは A.D. 946 の白頭山苫小牧テフラ (B-Tm: Machida et al. 1990, Hakozaki et al. 2018) に対比できると考えられる.