主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2020年度日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2020/10/10 - 2020/11/22
1. はじめに
多摩川は東京都を西の山地から東の東京湾まで流れ下る。明治時代に東京の水源を管理しやすくするため、東京都の範囲は多摩川に沿って西へ広がったという。
2019年10月12日に関東地方を通過した台風19号(typhoon Hagibis) がもたらした降水により、多摩川では水位が上昇した。国土交通省、「川の防災情報」ホームページの過去データ(河川の水位)「水文水質データベース」によると、多摩川の水位はデータのあるほとんどの地点でそれまでの既往最高水位を上回っている。この台風による増水がひいた後に変化した河川敷を見て、どの程度、堆積あるいは浸食したのか興味を持ち、計測、調査を行なった。
今回、対象としたのは、多摩川中流域、東京都羽村市の玉川上水取水堰付近の、①取水堰から約200m下流右岸の地点、②取水堰から約500m〜1km上流左岸にある宮の下運動公園と河川敷である。なお、②では河川敷の砂礫地とグラウンドとして整備されている範囲の間に高まりの列があるが、古い地形図や空中写真を確認すると現在のグラウンドを含めた全範囲が河川敷と読み取れるので、この高まり列はグラウンドを平らに整備する際に積み上げられた砂礫であろう。現地観察では今回、この高まりでは堆積、浸食とも発生している。今回の台風では、この高まりを越えてグラウンド内にも砂礫が堆積した。
2. GNSSによる標高データ
台風後の2019年12月から2020年3月に、GNSS受信機(Geosurf, SP60)を使用して、上記の①地点1か所、②地域の12か所で、標高と緯度経度を計測した。この測器を用いて、②地域の南西約500mにある三角点で計測したところ、国土地理院が公表している標高値との差は1cmであった。
3. 航空レーザ測量データ
台風前の、上記計測地点のなるべく正確な標高値を探したところ、この地域で2016年8月〜12月に行なわれた航空レーザ測量データが国土地理院にあることがわかり、入手してQGISでデータを読み取った。GNSS、航空レーザ測量それぞれの緯度経度の値から、上記GNSS計測地点とほぼ同地点の標高を得ることができた。精度は標準偏差0.3mである。
4.比較
上記2019年2020年計測のGNSSデータと、2016年の航空レーザ測量データ、それぞれの標高値を比較したところ、取水堰下流右岸の砂礫が積みあがった地点①では約2m標高が高くなっていた。②の取水堰上流左岸の蛇行の内側河川敷では、河川敷上流側では高さ変化は小さく、下流側でプラス、マイナスとも値が大きく、変化が激しくなっている。砂礫地とグラウンドの間の高まり上のプラス側の値も下流の方がより大きい。また、高まりが切れている部分からグラウンドに流れ込んだと思われる砂礫は、切れた部分の上流側よりも下流側で厚くなっている。